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物流の2024年問題
風向変えるチャンスに

2023年01月13日/物流最前線

なぜ、若者はドライバーに
なりたがらないのか

<首藤若菜教授>
20230111 shinshun ph4 - 物流最前線/2024年問題チャンスに、新春特別インタビュー

――  ところで首藤教授は、物流業界の労働状況をどのように分析されていますか?

首藤  労災認定件数が突出して多いことからも、とくに過酷な労働実態があると認識しています。長時間労働が起きる背景には、労働時間の管理をはじめ、きちんとした労務管理がなされていない事業所が多いと感じています。同時に、商慣行においては労働契約がきちんと書面でなされていない実態などがあり、やはり現代日本において、こういった実態を放置しているわけにはいかないという印象を私は抱いています。労働環境についていえば、特に近年では、働き方改革が進んでいく中で、社会全体は労働時間がどんどん削減されてきています。その中でドライバーの労働時間も少し短くなっていますけれども、やはりその格差は全然埋まっていません。

――  そうなってしまった要因というのは?

首藤  中小零細企業がとても多い産業構造だということが1つはあると思います。中小零細でもきちんとした労務管理している事業者もいらっしゃるので全てではないのですが、やはり規模が小さくなればなるほど、例えば運行管理者をきちんと配置しているかなど、労働時間を管理するうえでも問題が生じやすいと思います。ある程度の規模があると、そこにスケールメリットが働き、一律に労務管理しやすくはなります。零細規模の、10人以下の事業者や中小企業が多いことが、労務管理の杜撰さをもたらしている可能性はあると思っています。

――  全体の9割を中小企業が占めているということも特色なのでしょうか。

首藤  この中小企業がたくさんひしめき合っていることが、価格交渉力を弱めていることにもなっていると思います。ここまで多重的な下請け構造があるということも、関係していると思います。

――  多重構造ゆえに労使関係が見えづらくなっている?

首藤  経産省等が進めている「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、中間とりまとめの骨子案として「物流プロセスにおける課題」(非効率な商慣習・構造是正、取引の適正化、着荷主の協力の重要性)が議論されています。図で見てみると、このような逆三角形になっています。

<中間とりまとめ案 図 経産省 第4回「持続可能な物流の実現に向けた検討会」資料より>
20230111 shinshun ph5 - 物流最前線/2024年問題チャンスに、新春特別インタビュー

見ていただくとわかるように、物流事業者と着荷主の間には契約関係はないものの、物流事業者の長時間の荷卸し待ちや、契約にない附帯作業等の物流における課題の原因となる場合が多い。結局、物流業界の特徴は、契約関係がないところで物が動く、それが問題を複雑にしているんだと思います。多重構造のなかで下へ下へとしわ寄せが寄って、ドライバーが非常に過酷な労働実態を強いられざるを得ない状況になっている。

――  なるほど、2024年問題ではドライバー不足が懸念されています。しかもそのドライバーの高齢化も進んでいるんですね。

首藤  平均年齢でいうと、2021年の数値で大型が49.9歳、中小型が47.4歳。日本社会全体が高齢化し平均年齢が上がってきて全産業平均で43.4歳なので、それと比べてもやはり相当高いという実態があります。大型免許を取るためにはスキルも必要なので、中小型よりは年齢が高くなるとも言えます。ただ、1980年代ぐらいまでは、中小型はもちろん大型も、平均年齢は実は全産業平均よりも若かったんです。例えば1989年だと日本の男性労働者の産業平均年齢は38.2歳、中小型ですと36.2歳です。つまり若者が入ってくる産業だったんです。ところが1990年に規制改革が行われ、物流二法ができますよね。そこから事業者は増加していきますが、平均年齢は2000年前後に逆転し、全産業平均を追い越していきます。その後は、急速に全産業平均との格差が広がっていくという実態が起きていることは確かです。

<トラック輸送の担い手数の推移 経産省 第1回「持続可能な物流の実現に向けた検討会」資料より>
20230111 shinshun ph6 - 物流最前線/2024年問題チャンスに、新春特別インタビュー

――  なぜ、若いドライバーが減ってきているのでしょうか。

首藤  かつて運輸職は、高卒労働者にとって結構いい職場として考えられていたと思います。今は、高学歴化が進んで専門学校や短大に進学する者が増えました。非大卒者も半分くらいいますが、それでもなかなか従来の高卒労働者を採用していた職場では、高卒者を採用できなくなりました。製造業等も同様に、労働力の確保が難しくなっています。これに加えて、夜勤があったり、長時間労働だったりする仕事は総じて労働力不足に悩んでいます。物流のみならず、鉄道も、バスもそうです。しかも、これらの仕事は、所謂エッセンシャルな仕事で、社会にとって不可欠です。これらの職場で、働く環境を整備していくことは、若い人たちを集めていくために、とても重要な点だと考えられています。なぜなら、若年層ほど、労働時間や休日休暇などの要素を重視する傾向が見られるためです。そうした労働環境をどう確保できるかということを、事業者側は考えていく必要があると思います。

――  賃金面ではどうですか?

首藤  男性平均で比べると運送業は2割程度賃金水準が低い状況になっています。しかも2割程度労働時間が長いので、労働環境からしてみればあまり魅力的ではないし、賃金を上げていかないと人を採れなくなってくるという要素はあります。ただ、賃金を上げていくというのは、非常に分かりやすい例ですが、おそらく賃金だけでは難しいと思います。ワークライフバランスを考えて、家庭との両立ができるような形にするなど、女性が働けるかどうかを基準にして考えていくと、非常に分かりやすいと思います。そこまで踏み込んで、若い人たちを採っていく覚悟を持たないと、中長期的な採用には結びつかないと思います。

――  現状では、女性のドライバーはどれくらいですか?

首藤  数パーセントですね、統計上はあまり増えていません。私は、女性は一つのメルクマール(指標)ではないかとも思っています。女性が働いている職場は、ある種男性も働きやすい職場であることが多い。トラックドライバーは男性が圧倒的に多くて、女性にはとても無理だと思われていたりするわけですね。運転はどうにかなっても、荷役はきつい、女性の力ではとても無理ですと。でも、女性にとってきつい、無理な仕事って、実は男性にとってもとてもきついんです。人間にとってきつい仕事なので、それ自体を減らしていかないといけないと思います。特にドライバーが高齢化していくなかで、女性ができるような仕事のあり方を作っていかないと高齢者も働けないし、男性だってやりたくない。例えば荷役だったらパレットを使って荷下ろしができれば、女性もできるようになるというような形になるわけですから、女性が働けるような職場環境にしていくことを目指すと、結果的に男性も働きやすい職場になっていくと思います。

今、労働市場全体の4割以上は女性が占めています。この半分の労働者を対象外とするのはもったいないと思うんです。女性を活用していけば募集や採用の枠も広がりますし、それは一つの生き残り策としても重要だと思います。ただ、労働時間が長いとか、一回家を出たらなかなか帰れないとか、そういった働き方は、女性は子育てや家庭との両立を考えるとやはり働きにくいわけです。中継輸送などを入れて、その日のうちに帰ってこられるような労働形態にしていくと、若い男性も、そういう業界なら入りたいと思う人もいると思います。

――  自動化もポイントでしょうか。

首藤  自動化は進めていくべきでしょうね、できる範囲で。ただ全てが自動化になるかというと、そう簡単ではないと思います。もちろん中長期的に考えれば、いずれ誰も介さないで物流が全部自動的に運ばれてくる時代が来るかもしれませんが、でもその前にまずドライバーが足りなくて物流が途絶える時代が先に来る可能性のほうが高い。自動化は当然努力していくべきだし、進めていくべきだと思いますが、それによって目の前の物流危機が解消されるかといえば、そんなに簡単ではないと私は思っています。

――  やはり若い人に入ってきてもらわないと、業界として育っていかない。

首藤  もちろんそうですね。若い人が入ってくるような業界にしていかないといけない。私は労働を研究しているので、業界の産業構造について今、経産省でも一生懸命議論をしているんですが、着荷主に対して、物流改善の取組を直接義務付ける法律が存在しないということが明らかになっています※。

私は、荷主に対してもなんらかの規制を設けるべきだと思っていますが、ドライバーの労働条件を引き上げることによって、事業者側から荷主に影響を及ぼしていくことも必要だと考えています。下からの働きかけによって、「ドライバーの賃金を上げるために、運賃を上げないといけなくなりました」とか、「ドライバーの負担を減らすために、パレットを使わないと運んでもらえなくなりました」という両面の動きが重要だと思っています。

※省エネ法は、エネルギーの合理化に係る規制であり、輸送の効率化を伴う場合もあるものの、働き方改革に係る内容は義務付けの対象外。また、省エネ法は、荷主 (主に発荷主)に対しては、エネルギーの合理化に係る計画策定や大臣への報告・指 導等を義務付けているものの、準荷主(主に着荷主)には努力義務のみ。

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