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物流の2024年問題
風向変えるチャンスに

2023年01月13日/物流最前線

20230111 shinshun icathch - 物流最前線/2024年問題チャンスに、新春特別インタビュー

2024年4月から、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)の見直しが適用される。これにより所謂「2024年問題」が浮上、ドライバーの時間外労働が上限960時間に規制されることにより、運送業者の売上・利益減少、ドライバーの収入減少や離職、荷主側における運賃上昇等さまざまな影響が懸念されている。立教大学の首藤若菜教授は、改善案の見直しや経産省等が推進する「持続可能な物流の実現に向けた検討会」に労使関係の専門家として参加し、また自身の著書『物流危機は終わらない』でも、長時間労働を生み出す産業構造やドライバーの労働実態について多角的に分析。「私たちの暮らしや経済を支える物流を維持するためのコストは誰が負担すべきなのか」と問題提起した。2024年4月まであと1年余、首藤教授に2023年に何をすべきか、今後の対応策などを聞いた。
於:立教大学 取材:2022年12月14日

<首藤若菜教授>
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<改善基準告示改正の主な内容 厚生労働省HPより>
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運べないものは、運べない
2023年にやるべきこと

――  改善基準告示では荷主企業に対し、労働基準局から「配慮」を要請していますが、2024年に向け、荷主の意識改革は醸成されてきていると思いますか?

首藤  荷主の理解は、まだ十分には進んでいないと考えています。調査データに基づいても、2024年問題をまったく知らない荷主が数多くいることが示されています。ただ荷主の中でも、このままでは立ち行かなくなるという危機感を持っている方も少なくないと思っています。

荷主の事業者さんにドライバーの待機時間が長い点を伝えても、「彼ら(ドライバー)だってコーヒー飲んで待っているのだから、あれは休憩時間ですよ」とおっしゃる方もいます。「法律上、労働時間です」と話しても、なかなか伝わらない現実もあります。もちろん荷主の方もさまざまですが。ただ、荷主の方々の協力がなければ、ドライバーの労働環境は改善されません。今回の改善基準告示では、荷主に対する規制強化が盛り込まれましたが、こうした取り組みが必要だと私は考えています。

同時に、運送事業者も、荷主に対して意見を伝えていかなければならないと思います。運送事業者の多くは、ドライバーを長く働かせることがいいことだとは思っていません。しかし「荷主の理解が得られない」「これ以上労働時間を短くしたら、われわれは事業が成り立たない」とも聞きます。運送事業者からも荷主に働きかけをして、無理を言う荷主から手を引くというぐらいのことをやっていかないと、変わらないと思います。

――  運べないものは、運べないと。

首藤  そうですね。もうこんな安い運賃では運べない、と思うのであれば手を引く。その荷物は、たぶん別の誰かによって運ばれます。でも次に運ぶその誰かも、これ以上運べないという時が、きっと来ます。非常に無理を言う荷主がいたら、みんなで手を引いていく、ということをしていかないと、物流業界はよくならないのでは。このままでは荷物を運べない日がくる、ということを、メディアを含めて社会全体で醸成していく必要があります。荷主のなかには危機感を感じている方も少なくありません。

――  「2024年問題」というのは、そういう働きかけができるきっかけになると。

首藤  そうなればいいなと思っています。もちろん簡単ではないと思いますが、そのための1つのきっかけになりうるとは思っています。2024年4月から改善基準告示の内容が変わり、総拘束時間などが原則として短くなります。しかし、大切なことは、2024年問題と言われますが、実は2024年で終わらないんです。改善基準告示見直しの報告書の最後には、3年を目途に、再検討することが記されています。

「働き方改革」で残業時間の上限規制が導入されました。一般の労働者には、年間720時間の上限が適用されましたが、労働時間が長いドライバーとか医師は、いきなり720時間だと厳しいので5年の猶予が設けられました。だから「2024年問題」となったわけですが、5年間待つということに加えて、200時間以上の差をつけた960時間という上限が別に設けられました。つまり、2つの例外が設けられたわけです。でもいつまでも960時間という例外規定を設けているわけにはいきません。政府は、これを720時間にしていきます、とうたっています。だから2024年に960時間でスタートしますが、その後さらに短くしていかないといけない。そうしないと、もう労働者が入ってこないと思います。ドライバーには高齢層が多いわけですから、退職していく労働者が毎年一定数出ます。それを補塡(ほてん)しないといけないのに、誰が入ってきてくれるのですか?これを契機に打って出る、攻めて出るというようなチャンスに、是非してほしいと思います。

――  「選ばれない荷主」にとって、2024年以降は大きなリスクになるかもしれませんね。

首藤  リスクだと思います。だから逆に事業者側はこれを好機、チャンスだと捉えてほしいと私は思っています。

――  まず、何から取り組めばよいのでしょうか。

首藤  現実問題として、労働時間をどうやって短くするかということを考えていく必要があります。いろんなやり方があると思いますが、単に労働時間を短くするのではなくて、労働時間を短くするプラスアルファとして何ができるか。大切なことは、生産性の向上と運賃の上昇をセットにしていくことだと思います。

例えば、今は1社のトラック1台で運んでいたものを2社の共同配送にして、積載率を上げ、半々で労働時間を短くしましょうと。その代わりコストが上がるので、コスト増を補えるよう車両を大きくしましょうとか、パレットを2段積みにして満載を目指しましょうとか、そういったことをセットにして労働時間を短くする。コストだけが上がれば、当然事業者は赤字になりますが、それを労働者に転嫁すれば労働時間は短くなるけれど賃金は下がってしまう。賃金が下がれば、当然もうこんな仕事をやっていられるかと、今までどうにかこらえていたけど、これ以上賃金が下がるならもう辞める、と考える人が出てくる可能性もあります。これが一番恐れていることです。賃金の低下を引き起こさないためには、その原資を獲得しないといけないわけですから、運賃も上げないといけない。労働時間を短くしても運賃が上がるような仕組みを考えるしかないと思います。

――  例えばどんな仕組みが考えられますか。

首藤  生産性の向上は事業者の経営努力だけでは無理かもしれないですよね、例えばパレットを使うなんていうのは、荷主と交渉していく必要があります。地域ごとにトラック協会等に音頭を取ってもらって、共同配送などを積極的に使うなど、まとまって力を蓄えていくという方法もあります。その動きは、この2024年をどう乗り越えるかだけではなく、その後の時間外労働の上限960時間を720時間にしていくときの対応にも当然つながってきます。さらに言えば労働者を、若い人をどうやって入れるかということにもつながってくる話だと思います。そのためには、事業者はもっと、賢く、したたかになるべき。どうやったら運賃を上げられるか頭をひねって考えて、ドライバー任せではなく、自分たちで風向きを変えていくという努力が必要だと思います。生産性を向上させる工夫をして、ドライバーを集められる事業者が2024年以降、生き残っていってほしいと願っています。

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