ロジスティクスの理想と現実の乖離
第2回で、「ロジスティクスの目標は、必要な商品や物資を、適切な時間・場所・価格・品質・量(5R:Right Time, Place, Price, Quality, Quantity)」のもとで供給すること」とした。しかしこれは、あくまでも理想的な目標であって、実現は極めて難しい。
たとえば、極端な例だが、「晩酌用のビール(商品)を、毎日18時に(時間)、自宅に(場所)、定価で(価格)、冷えた状態のまま(品質)、1本ずつ(量)届けてほしい」と要求することは、いかにも身勝手であり現実離れしている。つまり、購入者にとっての「理想的な要求」が、販売者にとっては「過度な要求」ということでもある。
となると、現実的には、「配達最低本数」「許容できる配送頻度」「配送料別払い」などを検討することになるだろう。すなわち、「理想と現実の乖離の埋める作業」として、「サービスレベルの見直し」が必要になる。
すでに始まっている「サービスレベルの見直し」
いままで我が国では、顧客満足の優先や同業者間での激しい競争のために、当日配送や時間指定などの高いサービスレベルを安価に維持してきた面もある。これらは、「物流需要量<物流供給量」の時代だったからこそ可能でもあった。
しかし、前回の第10回で記したように、「物流需要量>物流供給量」へと逆転すると、「運びたくても、運べない事態」や、「商品は購入できても、届かない事態」が起きかねない。
このような事態を避けるためには、「物流供給量の拡大」と「物流需要量の削減」しかない。しかし今後とも人手不足が続き物流供給量の急激な拡大は望めないならば、需給バランスの維持のためには「物流需要量の削減」しかない。となると、具体的には「配送回数の削減」のための「最低発注量の変更」や、「積載率向上、効率的な配送」のための「時間指定の変更」など、物流における「サービスレベルの見直しが不可欠」ということになる。
そして、このサービスレベルの見直しは始まっており、すでにネット通販の当日配送は影を潜め、郵便物の翌日配達のサービスは原則なくなっている。
サービス項目のなかで、「何を優先し、何を我慢するか」
物流供給者によるサービスレベルの見直しが進めば進むほど、サービスを受ける側(物流需要者)の理想的な目標の実現がますます難しくなるだろう。となると、物流需要者は、現実的な対応として、「サ―ビス項目のなかで『何を優先し、何を我慢するか』」を考えなければならない。
たとえば企業においては、「在庫削減・多頻度配送」の同時追求から、「在庫削減を優先し、多頻度配送のコスト増は我慢する」か、「配送頻度削減を優先し、在庫増加のコスト増は我慢する」か、というような課題に直面するだろう。
消費者の購買行動では、24時間営業のコンビニで深夜の買い物では、「すぐ欲しい『時間』を優先し、スーパーよりも高い『価格』を受け入れている」ことになる。また、中山間地域での移動販売では、週に1回の『時間』と割増の『価格』は受け入れて、「自らの家のそばまで来てくれるという『場所』の価値」を優先して高く評価していることになる。表参照
表 5項目によるサービスレベルの違い
コンビニ 移動販売 ネットスーパー
時間 24時間開店 週に1回、1時間 配送時間は限定
場所 店舗で手にする 自宅近くで手にする 自宅に届く
価格 一般よりも高い 価格に割増料金 購入額により別途配送料金
品質 一般と同じ 一般と同じ 一般と同じ
量 約3000品目 コンビニより少ない品目数 スーパーと同じ(1~3万品目)