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物流最前線/日立建機ロジテックとゼンリンがタッグ

2024年03月28日/物流最前線

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日立建機ロジテックは日立建機の販売する重機の輸配送を担当している日立建機100%の物流子会社だ。重量物搬送だけに、道路の幅員や橋梁の強度等を考慮した特殊な輸配送となる。そのため道路を通行する際には「特殊車両通行許可証」を各種の窓口で申請しなければならない。申請にあたっては具体的な通行ルートの記載が必要で、かなり煩雑な作業だ。そこで日立建機ロジテックは輸送協力会社が持つ許可取得済ルートのデータベース化を進めることになった。そのデータベースの管理で、国内地図最大手ゼンリンの協力を得て、デジタルによる業務効率化を実現した。これにより、「新たなDX化への展望も開けてきた」と語る同社の平澤 雅之部長代理、村上 俊輔主任、そしてゼンリンの黒木 湧太郎氏にこれまでの経緯と今後の展開について聞いた。 取材日:2月15日 於:ゼンリン本社

<日立建機ロジテック 物流ソリューション部DX推進グループ 平澤雅之 部長代理>
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<日立建機ロジテック 物流ソリューション部DX推進グループ 村上俊輔 主任>
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<ゼンリン 総合販売本部 IoTソリューション営業部 IoTソリューション営業二課 黒木 湧太郎 氏>
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重量物輸送の特殊性と物流子会社

――  日立建機ロジテックは日立建機の100%子会社ということですが。

平澤  その通りです。売上のほとんどが日立建機グループからのものとなっています。ですので、競合他社があるわけでは無いのですが、そこに安住してもいられません。グループ会社に対して、価格面も含めて、新しい価値というか、付加価値を付けた上で輸配送しないと、我々の存在意義がなくなるものと思っています。

――  建機と言えば重量物になりますが、一般の輸送とはどのような違いがあるのでしょうか。

平澤  一番大きな違いは、重機を運ぶことには様々な規制が絡んでおり、また、簡単に法令違反となりやすい輸送でもあることです。例えば大型建設機械を輸送するにあたっては、「道路法」、「道路交通法」、「道路運送車両法」のそれぞれに規定される制限を受けることになります。我々は順法輸送を徹底しており、安全に輸送するといったところに付加価値をつけて、荷主である日立建機に安心してもらえることで、一般の運送会社とは明確に違うという差別化を図っている会社です。

――  特殊な輸送ということで、必要になるのが「特殊車両通行許可証」ですね。

村上  そうですね。その「特殊車両通行許可証」の取得には、事前に通行経路の調査をして、輸送時の安全を確保するとか、協力パートナーの運送会社と確認をとった上で、申請することになります。

――  一般の物流より特殊なだけに、より手続きが煩雑だということですね。

平澤  非常に重くて大きい物を運びますので、通行する際にその道路とか、橋梁がそれに耐えられるかどうか、トンネルやガードがあればその高さとか幅員ですね。車両の諸元や通行ルートを事前に申請して、通行許可を得る必要があります。

村上  さらに、規制の意味では、夜間(21:00~6:00)だけ通行しなさい、このルートを通行しなさい、トレーラーの前後に誘導車を付けなさい、といった様々な規制があります。

――  そうなると、「明日持ってきてください」とかジャストインタイムといった輸配送は無理ですね。

村上  例えば夜間だけしか走れない場合、ジャストインタイムで何時に持ってきてくださいと言われてもちょっと難しいですね。「明日持ってきてください」の場合でも、そのルートの特殊車両通行許可証を取ってないと走れません。そこで重要なのが、計画性を持って運行計画を立てることで、事前の計画性がとても大切になってきます。

――  一般的に配車・運行担当が計画を立てますが、その運行計画を立てる担当者は大変ですね。

村上  特に重量物を運ぶときは、関係各所と事前に打ち合わせを行い配車計画を立てる必要があります。また、必要に応じて生産計画から出荷計画まで確認を行い、配車計画を立てることもあります。

<日立建機ロジテックのトレーラー>
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<RORO船への積み込み風景>
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<RORO船の横に並ぶ日立建機の重機>
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物流DX化はデータのデジタル化が必須

――  特殊車両通行許可証がないと運べないということですが、これは協力パートナー会社も同様ですか。

平澤  弊社の運行車両の内、ほぼ9割以上は傭車、つまり協力パートナー会社の車です。輸送ルートにおいての特殊車両通行許可証を取るといったところから、パートナー企業も始めなければなりません。パートナー企業のそれぞれの車両が取得している特車ルート情報を、私たちにも共有してほしいとお願いしています。そして、提供いただいた特車情報は、弊社システムのデータベース上で管理する、という取り組みを2016年くらいから開始しております。

村上  全国のパートナー企業が所持している「特殊車両通行許可証」を私たちも共有するために、提供をお願いしているわけですが、それがFAXやメールで、それもルートごとに必要ですから膨大な数が送られてきます。その管理も非常に大変ですし、いざ必要な時に、輸送ルートでの特殊車両通行許可証を持っているパートナー企業を探し出すのも大変になります。

――  物流業界でのDX化が叫ばれていますが、まずは情報のデジタル化が必要だと。

平澤  そういうことです。

<平澤部長代理>
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<黒木氏>
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ゼンリンと特車交差点番号情報のデータ化で協力

――  本題に入りますが、特殊車両通行許可証についての日立建機ロジテックさんとゼンリンさんとの関係とは。

黒木  ゼンリンの立場からですと、特殊車両通行許可証のデータベース化におけるルート登録作業の効率化において協力させていただきました。

平澤  基本は全国各地にある9割以上のパートナー企業、協力会社から送られてくる申請書をデジタル化するということでした。しかし、デジタル化するにあたっても人力による入力が必要になるのです。これがとても大変な作業でして、例えば茨城県から九州まで輸送する場合、その区間内に通行する道路、交差点ごとの情報をつないだルートが「許可されたルート」ということになり、これが経路表になります。

――  輸送ルート間のすべての道路、すべての交差点情報ですか。

平澤  そうです。すべてですので、膨大な量になります。2016年にこのシステムが稼働した当初は、情報に示された住所を頼りにGoogle Map上で探します。マップ上で交差点一つ一つを丹念にたどりながら、「たぶんここかなぁ」と見当をつけるのです。まさに小さな部材を組み立てる内職をしているような感覚でしたね。ところが、ある時すべての交差点には国土交通省の特殊車両通行許可システム上で番号がふられていることに気づき、この番号と緯度経度を紐づけていけばもっと簡単に経路表をつくることができると考えたのです。

――  交差点に番号がふられていたのは知りませんでした。経路のデジタル化に利用するには最適ですね。

平澤  交差点の番号、緯度、経度の情報は国土交通省が持っていることはわかったのですが、それは非公開となっており、そこで一旦思考停止に陥りました。そんな中、2021年に東京ビッグサイトで行われた物流関連の展示会会場でゼンリンの黒木さんと自動配車システムでディスカッションしている際に、交差点番号の話になり、困っている旨を告げると、「何とかなるかもしれません」という返事をいただきました。それで、我々の持っている交差点データ約5万件をゼンリンさんにお渡して、ゼンリンさんが保有するデータベースの交差点番号と緯度・経度が一致するか検証したところ、9割以上が正しい緯度・経度としてはじき出されてきました。

――  ゼンリンが持つ地図データベースにより、交差点番号が該当する交差点の位置を特定することができるようになったわけですね。具体的にどのような仕組みでしょうか。

平澤  アプリケーション自体は、日立建機ロジテックが開発しているものなので、ゼンリンさんの交差点番号情報を有する地図データベースを検索させてもらうAPI(Application Programming Interface)連携を図ったわけです。我々のシステム自身が交差点番号情報のデータベースを持つのではなく、茨城県の日立建機ロジテック本社から交差点番号でアクセスして、東京のゼンリンさんの交差点番号情報のデータベースから緯度・経度情報を得ているということです。

――  開発から運用までの期間はどのくらいでしたか。

黒木  データ整合性の検証から始めましたので、約半年ほどかかりました。日立建機ロジテックさんのデータと当社が持つデータが合致したときはとてもうれしかったです。

――  日立建機ロジテックさんの作業の効率化についてはいかがですか。

平澤  作業効率は約1.5倍速くなりました。交差点のプロットだけではなく、そこから線でつないでいく作業もあります。しかし、一番大変だった作業にほぼ時間を取られることがなくなったことは確かです。従来の担当者は本当に喜んでくれました。膨大な量の経路表作成は、ゼンリンさんの協力なくしてあり得なかったと思っています。

<交差点の登録画面>027dab937db75f829bc224d3d45daa44 - 物流最前線/日立建機ロジテックとゼンリンがタッグ

<地図上に表現された経路表(黄色の線)>
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<村上主任>
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両社が生み出す新ビジネスに期待感

――  大きな課題だった案件が一つ片付いたわけですが、2024年問題スタートの年ということで、今後どのような展開を考えられていますか。

村上  工場や営業所からトラックに荷物を積んで出発してからは可視化できていませんでした。2024年問題でもドライバーに負荷をかけすぎていたことを改めようとする施策が多いと思います。例えば休憩する場所がないとか、駐車する場所がないといった様々な課題に対して、ゼンリンさんの持っている駐車場検索等のAPIの大型トレーラー版等を協力して一緒に作っていければと思っています。

平澤  2024年問題の広がりは、多くの人の意識を変えてくれました。弊社の今後の展開で言いますとDXの進展は当然ですが、今後は「モノ売りからコト売り」と言いますか、プラスアルファとして新たな付加価値を提供していくことが必要だと思っています。

――  日立建機ロジテックのポリシーということですね。

平澤  そういうことです。特車の情報をデータベース化しようという当時としては途方もない試みを実現してきましたが、このようなデータベースを持っている企業は弊社だけかもしれません。例えば、どの運送会社がどのルートを持っているかが、一目瞭然で分かりますので、このデータベースをインターネット上にオープンにすれば、新たなビジネスにつながる可能性があるものと考えています。

――  「モノ売りからコト売り」への転換で重要な点は。

平澤  「コト売り」への転換を図るためには、やはり情報やデータを生かし切ることです。我々の手元にある特車のデータベースは、ある種の限られた荷主さんにとってはとても需要のあるものだと思います。また、特殊車両通行許可証をもっているけど、営業のチャンネルがなく下請けに甘んじている中小の運送会社さんに対して、我々がお手伝いできることがあるものと思っています。そこに「コト売り」の糸口があると考えています。

――  日立建機ロジテックさんから今後の展望についてお願いします。

平澤  そうですね。オープン化とともに、村上が先ほど話したように、データベース上のいくつかのルートで大型の車両が休憩できる駐車場が検索結果として表示できれば、ドライバーの負荷低減につながるものになると思います。日立建機ロジテックが「コト売り」への転換を進めるためにも、ゼンリンさんとは今後も協力していきたいと考えています。

――  ゼンリンさんの今後の展望についてもお聞かせください

黒木  いろいろと興味深くお話を聞かせてもらいました。改めて、ゼンリンとしても日立建機ロジテックさんが考えている特車のデータのオープン化については、システム側の支援も必要だと思いますし、もしくはゼンリンがオープン化のサービス提供会社になるといったことも考えられるかなと思っています。引き続き特車輸送をはじめとした物流業務の効率化の支援をさせていただきたいと考えております。

――  日立建機ロジテックさんの今回の事例は、挑戦することの大切さを感じました。また、ゼンリンさんのデジタル化された地図情報やアプリケーションには今後の物流改革で大きな役割が期待できますね。デジタル化が様々な分野で進んでいることを実感しましたし、新たなビジネスの誕生が期待できます。ありがとうございました。

取材・執筆 山内公雄

<左から日立建機ロジテックの村上主任、平澤部長代理、ゼンリンの黒木氏>
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■プロフィール
日立建機ロジテック
物流ソリューション部DX推進グループ
平澤 雅之(ひらさわ まさゆき)部長代理

物流ソリューション部DX推進グループ
村上 俊輔(むらかみ しゅんすけ)主任

ゼンリン
総合販売本部IoTソリューション営業部
IoTソリューション営業二課
黒木 湧太郎(くろき ゆうたろう)氏

■日立建機ロジテックの拠点数
国内20拠点、海外2拠点

■日立建機ロジテック
https://www.hitachicm.com/logistics/ja/

■ゼンリン
https://www.zenrin.co.jp/
■ゼンリンの物流ソリューション
https://www.zenrin.co.jp/product/industry/transportation/index.html

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