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世界の100円ショップを支える
大創産業の「物流力」とは

2024年06月13日/物流最前線

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「DAISO(ダイソー)」を展開する100円ショップの最大手、大創産業は日本を含む世界26の国に5325店舗を展開し売上高は6200億円超(2024年2月期)。日用雑貨から衣類、食品など約7万6000アイテムを取り扱う。そんな同社が「店舗力」「商品力」とともに自社の共有価値観“三本の矢”の1つとして挙げているのが「物流力」だ。近年、「Standard Products」、「THREEPPY」など新業態にもチャレンジし、ワンプライスビジネスで中長期「国内外1万店舗・売上高1兆円」という壮大な目標を掲げる。同社の物流戦略についてグローバル物流本部の桑迫俊次 本部長と佐野友彦 日本物流課長に聞いた。

<あらゆる商品が並ぶ100円ショップ>
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<大創産業ロゴ 三本の矢の1つ「物流力」>
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<佐野友彦 日本物流課長>
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ワンプライスのビジネスモデル
支えたのは「物流重視」の歴史

――  1972年の創業以来、ずっと売価100円を継続されています。近年の物流環境をどう捉えていますか。

佐野 コロナ禍明けから様々な外部環境が変わりさらに2024年問題と、環境としてはやさしいものではありません。我々は100円という均一価格でビジネスをしているので、どうコミットしていくかというのは非常に大きな問題です。そのなかで大きなチャレンジとして、2023年7月の「神奈川RDC(リージョナルディストリビューションセンター)」の開設や構造的な物流スキームの見直しを行い、試行錯誤しながら価格維持と品質維持に注力しています。

――  荷主として2024年問題の影響は出ていますか?

佐野  配送や庫内の協力会社さまと運用や仕組みを見直すことで、ともに生産性を上げていく作業を今まさにやっているところです。我々は非常に多品種の商品を扱っているので、やはり仕分けや検品などに対しては多くの時間と手間がかかっています。そういった部分を自動化し、検品プロセスを人手から機械に置き換えるなど、検証を繰り返しています。

――  御社のRDCでは自動化を進めているのですか。

佐野  現在、神奈川含め国内に9か所のRDCと300円SHOP「THREEPPY」専用倉庫1か所を設置していますが、神奈川以前のRDCは2012年の埼玉を皮切りに大阪、新潟、九州、北海道など全国に開設したものです。一部のRDCにはBOXソーターなどのマテハンは入れていますが、より高度なマテハンや自動化については神奈川での検証を経てこれから横展開できればと考えています。ただ、我々は大創産業として成長し始めた時点、先代社長の時代から倉庫には非常に高い関心と意欲を持って、事業展開をしてきました。

<創業当時の様子、スーパーの催事場からスタート>
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<すべて100円のビジネスモデルを確立>
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佐野  2017年頃まで広島本社では朝、社員全員がジャージで出社して通常勤務の前に従業員皆でデバン(荷下ろし)をする文化がありました。当時は自前でも商品を運ぶことがあったので、倉庫の重要性やいち早くお客さまに商品を届けるという点で、物流にはずっと注力してきました。今も新入社員・中途入社社員には早い段階で「物流研修」を行っています。

――  物流研修とは?

佐野  実際にRDCで入出荷業務などを体験し大創産業の物流について、身をもって理解してもらえる内容です。社長には「物流の大切さを社員に実感として浸透させたい」という想いがあり、今も年末の応援などで倉庫に行くことがあります。それは我々の事業として大切なことで、物流が大変なときは全員でやる、という意識を根付かせていきたいというのもあると思います。

――  桑迫本部長、どのようにして100円ショップの物流を今も実現しているのですか。

桑迫  100円で売るためにいかに我々がいかに工夫するのか、というその1点だと思います。余計な包材を使わないとか、圧縮した形状で送るとか、組み立て式ではなかったものを組み立てにしてコンテナの容積率を最大化するとか、特殊なやり方はないです。一つの箱により多く乗せるか、一つの商品に対して労働生産性をいかに高めるか以外にはないと思っています。運び方も店舗数の割合を考えて細かく計算しながら調整しています。これは正直、非常に手間がかかる作業ですが、常にやり続けています。

――  まさに人智の結集ですね。今後、そこを効率化するために自動化は必要と考えますか?

桑迫  変わらない事実として人は減りますからね。日本の生産年齢人口が毎年約1%減るのは、これは事実で、10年経てばおそらく10%の人が減っている。そうすると自動化せざるを得ません。

――  人が減るということは、需要も減るということでしょうか。

桑迫  そこは競争なので頑張ります。各社さまと切磋琢磨だと思います。もう一つ、変わらない事実として世界の人口は増えますので。

――  日本だけではなく世界へ展開していくということですね。国内では神奈川が9か所目のRDCですが、マレーシアに新GDC開設(2028年)も発表されました。今後の施設計画は?

<マレーシアGDC完成イメージ>
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桑迫  中期では2030年までに国内で3か所のRDCを作るという計画があります。神奈川RDCでも現在、検証を繰り返していますが、当初考えていたものは違うものになる可能性は十分にあり得ます。グランドデザインとしては現時点では変わりませんが、関東圏と近畿圏でと考えています。人口集積地で港が大きい場所、というイメージです。海外についてはマレーシアは輸出のための港であり倉庫でもあり、少し機能が違うので大きく構えていますが、そこでもまたいろいろと課題が出てくると思います。検証しながらですね、すんなり立ち上がるセンターなんて世の中にはどこにもない。やりながら、失敗しながらです(笑)。

2024年問題へ運送事業者と協働
工夫の積み重ねこそ「強み」

<世界24か国、倉庫総面積21万坪に拡大する物流網>
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<自動化を推進する神奈川RDC>
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――  御社には非常に多くの商品と店舗があります。輸送力不足が懸念されていますが、どう確保していきますか。

桑迫  本当におかげさまで良い協力会社に恵まれているので、そことの関係性を強化するに限ります。

――  神奈川RDCではハマキョウレックスさんに委託されているとか。地域ごとに即した形で運送事業者を選定するのですか。

佐野  そういう要素もありますが、総合的な庫内運営から足回りの配送に至るまで、各社さまの特徴で判断しています。我々のビジネスモデルに共感し、お互いに協働で取り組んでいただけるかというのもその1つ。創業者から今の社長に至るまで、お客さまに100円という価格で品質の良いものをお届けしたい、それを世界に拡げようという想いでやっています。そこに共感し、いろいろなアイデアを一緒に考えてくれるような企業さまが良いのではないかと思っています。

――  2024年問題もあり、事業者側からの要望もあったのでは。

桑迫 たくさんあります。基本的にはすべての値上げです。ただ、我々はおかげさまで店舗も増えていますしエリアも拡大し、既存店といわれる一店あたりの売上も増えています。そういう意味で単純なお金の話だけでなく、未来を語れる環境にあり、海外や新しい業態への展開のなかで議論ができます。ただこれまでと違って量が増えるということがポジティブなだけではないとられ方をする場面もあります。

KPIとして、内製化というか自分たちでなんとかしないといけない、というところは強く思っているつもりです。各社からも工夫を募って基本は三方が良くならないと。この24年問題に限らず、誰かが泣く話ではないので。泣いた買い手はいつかサステナブルではなくなります。なので、そうした工夫を各社と一緒になってさせていただくということだと思います。

――  ところで御社は毎月1200アイテムを開発しているとか。商品開発はサプライチェーン計画も含めて行っているのですか?

桑迫  そうですね。そうしてくれています。

――  最近は100円のほかに300円や500円など商品展開をされています。価格帯により物流オペレーションやコストも違うのですか。

桑迫  100円より300円の方が、サイズが大きいものが比較的多いというのはあるので、そういう意味では物流費用としては当然100円の商品より300円の方がアベレージにすると高くなるというのは、致し方ないと思います。ただ、我々のオペレーションや考え方は変わらないです。1個いくらで出すかというだけです。

――  急激な円安で100円ショップ業界にも影響が出ているのでは。改めてワンプライスで勝負し続けられる大創産業の「物流力」の強さは。

佐野  物流という目線だけではやはり正直大変な部分はあります。円安については我々はもともと、何とか100円を維持して販売することを日々繰り返してきた企業です。店舗数を増やせばそれだけ仕入れの数も増える。だからこそ大きなRDCが必要で、という見通しの中でやっています。逆にそれが商品を良くしてくれたり、いい意味で言うと鍛えられたというか、価格が決まっているからこそ、そこに工夫を重ねてきたというのが、わが社の強みだったのかなと思います。

<佐野課長>
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――  これからの物流課題は。

佐野  たくさんありますが、ひとつは店舗の負担をいかに抑える物流モデルにするか。やはり我々の一つ大きな利点はRDCを自社で構えて、商品をまとめて店舗に送るというスキームです。配送方法を変えることで、店舗のオペレーションが非常に効率化され、店舗の生産性にも寄与する部分が大きいと思っています。もちろんそれによって物流コストが上がるということも考えられますが、結果として店舗、ひいてはお客さまに向けてのサービスが良くなることで、会社全体の利益向上につながるのであれば、そこは大きなチャレンジをしていかなくてはいけない。配送方法や梱包の仕方など「荷姿」と呼んでいるパッケージの仕様など、そういった部分の改善というのは永遠に取り組まなくてはいけない課題ではないかと思っています。

桑迫  難しい質問ですが、物流というくくりで話をする時代はもう終わっていると思っています。サプライチェーンなのだと思います。結局、トレードオフの関係があると思っていて、物流が楽になるとお店の負担が増える、きつくなる、商品が良くなると物流が負担を被るみたいなことが起きないように考えると、物流だけで何かを考えるというのはもう既に終わっている。それはどの会社も同じだと思いますし、今まで以上に強く意識していかないと。

――  2024年問題もサプライチェーン全体で考えるべきだと。

桑迫  2024年問題の解決は、実は物流ではないところにあると私は思っています。マーチャンダイジングのところから入らないといけないかもしれないですし、物流は許容するけれども店舗の生産性をとことん上げるという解もあると思います。今はどちらかというと瞬発力を高める時期で、長期的なビジョンを達成するというのは当然ですが、物流という概念ではなく、サプライチェーンの俊敏性をいかに高めるかがテーマではないかと思っています。

■神奈川RDCルポ📷

2023年7月、神奈川県平塚市に開設した大創産業神奈川RDCは、最先端の自動化設備を備えた総延床面は5.3万m2の大型物流施設だ。RDC(地域への在庫保管型物流センター)として国内9か所目となり、主に東京(23区以外)、神奈川、山梨、静岡などのDAISO約430店舗へ商品供給を行っている。出荷量は1日平均約60万ピース、取扱いアイテムは8000~9000SKUという膨大な数。荷姿も商品によりバラバラで、実寸を登録することからスタートしたという。「当初は安定稼働とは言えない状態でしたが、それでも出荷は止められない。お客さまの手元に商品が届かないと我々も売上をつくれないので」と、物流部の網野祐貴 主任は振り返る。

<物流部 網野主任>
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センターの稼働時間は6時~22時。広々とした入庫トラックバースにはコンテナを搭載した大型トレーラーやトラックが次々と搬入に訪れる。運営は3PL企業のハマキョウレックス様に委託し、庫内作業は社員25名とパート140名ほどでシフトを組んでいる。国内で特に主力エリアの1つである西関東エリアへの配送をよりスピーディーに行うため、神奈川RDCでは最新マテリアルハンドリング機器を導入し、作業人数は同規模の埼玉RDCに比べて3割ほど削減できているという。

搬入ゾーンでは荷下ろし後、作業者がローラー上に設置したパレットに積み付けを行い、パレットのまま手押しで入荷を行っている。これにより女性の力でも搬入しやすく、ドライバーの待機時間削減にも繋がっているという。さらにロボットパレタイザー導入により省人化を推進。最大で1時間に600ケース対応可能となった。一方、2枚のパレットを同時に搬送できるツインフォークリフトもトライアル的に導入。フォークドライバーの不足という課題に対しても検討を進めているという。

  • <ロボットパレタイザーを導入>
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  • <床にローラーを設置、ツインフォークも導入>
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  • <高層倉庫パレット自動(1~4階)>
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稼働当初、課題となったのが荷姿の問題。「商品を組立式にしたり圧縮したり、容積率をギリギリまで抑えた形で運んでいるため、想定と実寸が違っていたり、クッションなどは膨張して箱に収まりきらないことも」と網野さん。加えて、毎日にように何らかの新商品が入荷してくる。神奈川RDCでは自動計測機を導入し、荷姿の実寸を正確にデータ化していくことで、入庫~保管オペレーションがようやく軌道にのってきたという。

商品を保管するパレット自動倉庫は高さ30m。このほかフレックス倉庫で複数サイズの段ボールケースを保管している。出荷は高層パレット倉庫からの手動出荷と自動出荷、フレックス倉庫からの自動出荷の3ラインで対応。段ボールケース出荷とオリコン出荷に分類し、オリコン化が必要な商品はカートンカットラインに搬送される。

ここで活躍するのがカートン(箱)の上面をカットする「オートカートンカッター」だ。商品特性に応じて人手と作業を振り分けることで安全性を確保し、後作業のピッキングをスムーズにする。ピッキングステーションで作業員が出荷する商品をトレーに入れ、シャトルに収納された後、店舗ごとに仕分けを行う。仕分け済みオリコンはリライタブルレーザーシステムにより出荷情報が自動印字され、出荷ラインへ。リライタブルカードは情報を約500回、書き込み/消去できるもので、従来のラベル貼り付けや剥がし作業が不要となり、環境配慮やランニングコスト削減にも繋がっているという。すべての出荷商品は誤仕分け・積込みを防止する「RFIDゲート」を通過して店舗ごとに出荷される。

  • <オートカートンカッター>
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  • <リライタブルレーザーシステム>
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  • <RFIDゲートで出荷管理>
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こうした一連の神奈川RDCのオペレーション・マテハンとWMSは今回、豊田自動織機が設計し、微調整を繰り返しながら最適化を目指している。「改善を繰り返し、ようやく我々が目指す生産性が徐々に見えてきたところ。一つでも多く、出荷ピースを上げられるよう取り組んでいます。今、直面している課題はロボットとロボットをどう繋げていくか。どうしても人の手が介在して次のロボットにいく、という形になるので、ロボットどうしを繋ぎ合わせて完全オートメーション化したい」と網野主任。さらに、世界各国の各拠点をWMSで繋ぎ、水平展開していくという取組みも既に始まっている。

取材・執筆 近藤照美 山内公雄

■神奈川RDC(動画)

タイの最新物流レポート/国際物流フェアとコールドチェーン

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