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2024年へ独自のEC物流構築 アスクルの歴史は自動化の歴史

2023年10月19日/物流最前線

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「明日届ける!」と決めた事業開始から2024年3月で30周年を迎えるアスクル。オフィス用品のBtoB通信販売「ASKUL」をスタートし、2012年からはBtoC向け通信販売「LOHACO」もスタートしている。現在ではオフィス用品のみならず、生活必需品や医療器材、食品等幅広い商材を扱っている。同社では、基本的に自社物流で展開しているだけに、2024年問題に関しても関心が高い。長距離輸送は輸配送業務のメインではないものの、その及ぼす影響については早くから万全の準備を進めていた。同社の執行役員成松岳志ロジスティクス本部本部長に、2024年問題への対応と、今後の物流での自動化・ロボット化について伺った。
取材日:10月2日 於:アスクル本社

<成松ロジスティクス本部長>
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<最新鋭の設備を誇るASKUL東京DCの外観>
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BtoBで大きな成長
需給バランスに腐心する

――  ようやくコロナ禍も収まりつつある現状ですが、この期間のアスクルさんの需要動向とEC需要についてお聞かせください。

成松  まず、アスクルの業務は大きく分けてビジネスとして2つの事業を行っています。一つは事業所向けのBtoB事業であるアスクル事業、そしてもう一つが個人向けのLOHACOの事業です。性格の異なる市場ですので、コロナ禍等によるマーケットへの影響は異なった傾向を示しました。中でも、現在成長が著しいのはBtoBです。BtoBはやはりコロナが与えた影響は大きく、企業活動が一時停滞し、需要が減りました。ところが、企業活動が再開されるに従い、利用金額も増えるなど顕著な伸びを見せています。ただ、一部でBtoBでの医療機関向けの消毒液とかマスクといったものは、需給バランスが劇的に崩れていましたので、厚労省さんと一緒に優先供給するといったこともあり、特需的なものはありましたが、今は落ち着いてきています。

――  BtoCについてはいかがでしょうか。

成松 逆にBtoCのLOHACOでは、コロナ禍の中、家の中で生活を回さないといけないタイミングで巣ごもり需要が増え、EC需要が一気に膨れ上がりました。そこから現在では、どちらかというとリアルな生活に少しずつ回帰している傾向にあると思っています。つまり、EC業界自体があの時何年分かの需要が前倒しで発生してしまったと。今は成長率にも調整期間がはいってきているなと感じています。

――  BtoC市場の拡大は顕著でしたね。ネットで買い物をする習慣が一般に定着する期間だったようですね。

成松  あの時に起こったことは利用者の層が大きく広がったということでしょう。我々のLOHACOでは、それまで40代、50代の方がメインで利用してもらっていたサービスでしたが、コロナ禍では20代の若い方、60代、70代といった高齢の方まで需要が一挙に広まりました。また、これまでなら、ホームセンターやデパート、スーパーマーケットとチャンネルをまたいで購入していたものを、ECに寄せるしかなかった当時の生活環境の変化も背景にあったと思われます。

――  率直な話、EC業界はかなり潤っているなと世間では見られていたと思いますが。

成松  確かに売上自体は大きく成長したとは思いますが、それと同時に、需給バランスに難しいコントロールを要求されました。2017年には宅配クライシスが起こりました。その数年後にコロナ禍ですから、需給バランスが崩れた状態をどう正常化するのかを試された時期でもあり、2024年問題でもそうですが、決して需要に連動して供給力を青天井で増やしていける状態でもありません。需要自体の上下動があれば追従し続けるのが市場の原則の中で、どう供給力とのバランスをとっていくのかということがやはり一番重要で難しいポイントだったと思います。

――  ラストワンマイル問題・宅配クライシスが解決されないうちにコロナ禍がはじまり、そして2024年問題ですからね。オペレーション面では大変だったと思います。

成松  機能面から考えると、ECがほかの流通業界と大きく違うのはオフィスや家まで届けるという行為です。そこで必要な供給力というのは、自然に市場の成長と共に、拡大していくと思い込んでいたのが2017年まででした。2018年以降は宅配のモデルにEC需要を全て上乗せしていけばこれはもう破綻しかないことに、ようやく気付き始めた時期でした。ECとしてはどのように需給バランスを整えながら成長していくのか、様々な改革を加速せざるを得ないといった状況が生まれてきました。まして、我々はアスクルという社名で「明日届けます」と言い切っている会社でしたから、なおさら、危機感はありました。

<アスクル物流プロセス>
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早く届ける理想は掲げ
持続可能な事業の確立へ

――  EC関連ではこのところ本当に翌日配送、当日配送が必要かといったような議論も多くなりました。

成松  当然のことながらやはり急いでいる方もいればそれほどでもない方もいらっしゃいます。急いでいる方に早く届けるというのは我々の使命なのでその軸は外せませんが、EC業界自体がどこよりも早く届けることにこだわり過ぎていた感は否めません。限られた供給能力を利用して全国一律のサービス提供が果たして可能なのか、それが持続可能な事業なのかということです。

<「おトク指定便」の告知>
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<「おトク指定便」利用率>
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――  御社では、「おトク指定便」の本格展開を始めたり、最近では注文金額基準の変更も始めました。

成松  「おトク指定便」はヤフー(現:LINEヤフー)さんとの協力の元、LOHACOで標準より遅いお届け日指定でPayPayポイントがもらえる実証実験を2022年8月28日から実施し、2023年4月から本格展開を始めました。2022年8月28日から10月9日までの実証実験でしたが、特定日の荷物量増加に伴う物流(出荷・配送)負担を分散させることで、物流の安定確保や効率化といった物流業界でのサステナブルな活動を実現することを目的に行ったものです。その結果、全体の注文者のうち、想定を上回る51%のユーザーの方がこの実証実験を利用しました。付与ポイントは最大30円時で54%、20円・15円時で48%と、金額は些細な額ですが、約半数のユーザーが利用されたということに驚きました。

――  半数の方がそんなに急いでなかったということですね。

成松  この実証実験は、元々大型販促でたくさんの注文をいただくような日というのは、通常の5倍、10倍の注文をいただくので、当然物流キャパシティを超えてしまうということが背景にありました。販促商品は安価に設定しており購入される方が多いのですが、その代わり、1週間お待たせしてしまうということが頻発していたことから実施したものです。結果的に「別に私は、そんなに急いでいません。少しでもポイントがもらえるなら全然待ちますよ」と言ってくださる方が半数ほどいらっしゃったということです。

――  当初の御社の想定からするといかがでしたか。

成松  我々の想定をはるかに越えていました。当初は30%くらいいくといいなと思っていたのが51%ですからね。我々に「絶対、早い方がいいはず」といった思い込みがあったのは事実で、正直これは反省しなければならない点でした。

――  実際、家にずっといる人達も限られていますし、確実に受け取れる日時に来てほしいと思っている人もいますよね。

成松  そうですね。実際のところBtoBのオフィス向けの調査でも、当日配送をご希望される方は一定数いらっしゃいますが、翌日に届けて欲しいという方もBtoBでもかなり多いのです。LOHACOでも週末に家にいるから、2~3日待つのなら、週末で良いという方も多いです。1日待つのが2~3日待つに変わっても、自分が確実に家にいるときを優先するマインドに変わるんです。ただ、大型販促の受注自体はお得な日に集中するので、受注を平準化するということはなかなか難しいのですが、少なくとも出荷のオペレーションの平準化はできますので、特売日の翌日に購入された方にも通常通りの対応ができます。基本的に出荷を平準化することで、オペレーションはかなり改善されたと思います。

――  アスクルの事業所サービス「ASKUL」と「ソロエルアリーナ」の基本配送料の御社負担の注文金額標準を10月31日から変更されますね。

成松  これまで注文金額が1000円以上は弊社負担、1000円未満は330円だったものを、2000円以上を弊社負担、2000円未満を440円に変更しました。これは昨今のEC需要拡大が2024年問題に代表される物流業界の深刻な人手不足と労働負荷増加を招き、日本社会全体で抱える大きな問題になっていることから、なるべく注文をまとめて頂くといった施策です。10月31日18時より実施いたします。LOHACOでも、先んじて昨年11月1日から改定しまして、従来の3300円以上から3780円以上に、基本配送料金は220円から550円に変更しています。

――  オフィスでは大量に注文するので、2000円未満というのは少ないのでは。

成松  通常は、確かに1万円~数万円といった単位で注文される企業が多いのですが、たまにそういう企業でも足りなくなったもので急ぐものに関しては、「すぐに届けて」といった要望があります。確かに配送効率は悪くなりますが、これは当社のサービスのひとつですので、無くすわけにはいきません。その代わり、まとめ買いということを推奨していて、そのユーザーにはインセンティブを強化していくことを推進しています。いずれにせよ、顧客とのコミュニケーションの中で、社会課題にも応えていこうと決めています。

<成松ロジスティクス本部長>
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いち早くDX化に挑戦
ネットワーク化はほぼ完了

――  社会課題でいうと、このところ物流業界では2024年問題が大きな話題になっていますが、御社にとっての2024年問題に伴う対応とは。

成松  基本的には2024年問題の法改正に伴う物流配送のネットワークの維持ということになりますが、ある程度は目途が立っている状態で、ほぼ完了している状況です。我々は長距離の輸送領域はあまりなく、基本的に消費地の近くにDCがあって、そのDCからラストワンマイルの物流に載せて届けていることがメインの領域ですので、拠点間をまたいだ輸送に関しては割合としてはまだ少ないと言えます。どちらかというと、2024年問題よりは、ラストワンマイルのところで非効率や人出不足といったことに対処することが基本的な対応策になってきます。そのための、配送を考えた商品開発も行っています。

――  配送を考えた商品開発とはどのようなものですか。

成松  まさにラストワンマイルを意識した商品開発で、LOHACOを始めたころに、「LOHACO ECマーケティングラボ」を作ってビッグデータを参加メーカー・サプライヤーに共有、メーカー・サプライヤーと共同で商品開発を行っています。例えば、25m巻き×12ロールだったトイレットペーパーを75m巻き×6ロールにすることで、物流面で言えば、体積1/3で輸配送の効率化を向上し、保管小売りもアップします。一方マーケティングのポイントでは、交換の手間が削減し、低価格、保管スペース削減となります。

――  確かに、軽くてかさばるものはまさに空気を運んでいるようなものですからね。

成松  実際、開発には大変苦労があったようです。トイレットペーパーですから、やはりふんわり感がないといけませんし、どの程度の水分割合が適当か、何度もテストしたそうです。そのほかにも、2Lのペットボトルは6本入りで同梱ができないので、独立して配送するしかなかったのですが、これを「LOHACO Water2L」ではスリム化して5本入りで横並びにしたことで、段ボール箱の底面にすっきり収まり、他の商品も同梱できるようになりました。

――  商品開発による物流の効率化がよく分かる事例ですね。ところでラストワンマイルでの配送面での人手不足に関してはどのような対応を。

成松  元々、個人向けの宅配サービスの基本は大手物流事業者のサービスレベル=ECのサービスレベルという状況でしたが、コロナ禍で置き配が普及してくると、対面型のサービスの優先度が下がってきます。そうすると、これまでオフィス向けで運んでもらっていた業者の方やドライバーに個人向けのLOHACOの荷物を担当してもらうことが増えており、個人向けの自社比率が上がっている最中です。「とらっくる」というドライバーズアプリの自社アプリも開発しており、この辺りは標準化して対応しています。

――  アプリの制作はどちらで。

成松  自社製です。エンジニアが内部におり、ASKUL LOGISTも実際に現場でドライバーさんと接していますので、意見を汲み上げ改良を重ねて今日に至ります。

<アスクルの主要10センター>
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――  全国にDCを構築して運営していますね。

成松  配送拠点のDCについては、昨年11月21日に稼働した「ASKUL東京DC」をはじめとして、全国に10の物流センターを構えています。運営は、ASKUL LOGISTが担当しており、100%の自社グループ運営となっています。配送に関しては大手物流事業者と共に、地元のキャリアにもパートナーとして協力いただいています。

<アスクルの物流センター最新ロボティクス アスクル公式チャンネル>

<ASKUL自動倉庫>
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<ASKUL庫内>
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――  今年の3月9日に「ASKUL東京DC」を見学させていただきましたが、自動化がとても進んでいたことに驚きました。DX化の先進事例ですね。

成松  基本的にはあらゆる工程を自動化、省人化、効率化をしていきたいということで、約10年前から注力している分野です。入荷から、仕分け、出荷までの工程の自動化を戦略的に進めています。2024年問題で課題となっているトラックの荷待ち時間の削減も、数年前からHacobuさんのバース予約システムを導入しています。AGVによるパレット搬送についても、様々なモデルでチャレンジしています。

――  センターのAGVについても様々な機種を稼働させていますね。

成松  やはりその現場にどのようなものが向いているか、SKUも現場ごとに違いますし、レイアウトも違いますので、その辺のインテグレーションはマテハンを設計するチームもありますので、そこでコントロールして決めています。機器類は発展速度が急速ですから、一括して全センターに導入するのではなく、その時々の状況に合わせて最良のものを選んでいるわけです。AGVについては、今は棚搬送AGVを導入していまして、棚ごと動かしてピッカーさんは固定で、セッションで固定ピックしていく方式をAGVでは採用しています。

――  アスクルさんの扱う商品はどのくらいあるのですか。

成松  現時点で取り扱い商品は約1200万点にのぼります。オフィス用品で言えば、クリップやコピーペーパー等小さくて軽いモノから、オフィス家具といった重くて大きいものまで様々です。ただし、中には単価が低い商品も数多くあります。ですので、単価が低い商材でもeコマースの物流費を賄いながら、ビジネスとして設計していくためには、ワンオーダーワンボックスと我々が呼んでいるのですが、一つの注文を1箱に入れて、なるべくムダがないように単価を合算すれば採算が取れるというようにしていかないとビジネスが成り立ちません。それが成り立つために、自動化工程は相当力を入れてやってきた分野です。

――  完全自動化の残りの課程はピッキングになりますか。

成松  確かにピッキングは梱包や自動運転のトラック等と同様、物流の自動化に最後に残された部分の一つでしょうね。現在移し替えるところまではロボットに挑戦させていますが、あらゆる形のもの、あらゆる材質のモノ、あらゆる硬さのモノを上手にピッキングすることは難しく、まだ人の手を借りている状況です。ただ、我々が自動化を積極的に進めていると言っても、これは人員削減が目的ではなく、あくまでも単純作業とかきつい作業、重労働等の人が苦労する業務を極力減らしていく事が目的で、人には人でしかできない業務があるということが大前提です。

――  ありがとうございます。最後になりますが、成松本部長は「ASKUL東京DC」の報道陣への公開が済んだ後の4月1日付で本部長に就任されたとのこと。半年が過ぎたわけですが、今後に向けての抱負をお聞かせください。

成松  今差し迫っている2024年問題も重要ですが、社内的には2030年問題(日本国内の人口の約3割が高齢者となることで引き起こされる各種問題の総称・ドライバー不足で36%が運べなくなる恐れ)と言って、2030年には36%の需給バランスが崩れるという予測を正として、逆算で動きましょう、というのがあります。我々の立ち位置は物流の機能を自社で持っている、けれども当然荷主側の立ち位置のEC事業者なので、この両方がやれるというのはやはり業界の中でもオリジナリティーがある存在だと思っています。そういう意味では、私自身LOHACO事業部でやってきた経験が長いので、物流のこの社会課題と事業に対して何ができるか、先行して業界をリードできる存在になっていくことが重要だと思っています。来年の4月1日にどうなるのかというよりも、もう少し中長期的な視点で物流課題を捉えていく必要があると思っています。

――  一番大変な物流変革期に舵を握るわけですね。ところでオフの日の過ごし方は。

成松  やはりオフの日は子どもと遊ぶことが一番ですね。後はゴルフをやってることが多いですね。以前はワンダーフォーゲル部で登山もしていました。体を動かすことが好きですね。

取材・執筆:山内公雄・近藤照美

<成松ロジスティクス本部長>
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■プロフィール
アスクル 執行役員
成松 岳志(なりまつ たけし) ロジスティクス本部本部長
2007年アスクル入社。オフィス向け通販サイト「ASKUL」のCRM、プロモーション、新規サービス企画担当を経て、個人向け日用品EC「LOHACO」立上げに参画。2022年5月より、執行役員としてLOHACO事業本部を統括するとともに、ECマーケティングディレクターとして企業間のデータ利活用を推進。2023年3月に、ロジスティクス本部の本部長に就任。

■アスクルホームページ
https://www.askul.co.jp/corp/

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