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物流最前線/YKK精神は「一貫生産体制」 物流事業の重要性は全社の方針

2024年02月16日/物流最前線

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YKKのグループ会社の一つ、YKK APは窓や玄関ドア等のArchitectural Products(建築用工業製品)の世界的なメーカーだ。「一貫生産体制」を掲げる同社は早くから、物流改革にも熱心で、2019年11月にはホワイト物流推進運動で、自主行動宣言を行い、TCからDCへの変更、倉庫の自動化、W連結トラックの採用、新型輸送パレットの開発、集荷先や配送先の集約、異常気象時等の運行の中止など、2024年問題対応が叫ばれている現在に通じる施策を展開してきた。それでも「まだまだですね。ドライバー人口の減少は確実ですし、運んでもらえない状態は今後一層増してくると思います」と危機感を語るのは執行役員の岩﨑 稔ロジスティクス部長。物流事業の重要性をYKK AP全社で認識しているという同社の今後の展開を伺った。 取材日:1月26日 於:YKK AP本社(秋葉原)

<YKK AP本社(秋葉原)>
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<執行役員 岩﨑 稔 ロジスティクス部長>
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ホワイト物流推進運動に真面目に取り組む

――  コロナ禍もようやく落ち着いてきましたが、御社の状況はいかがでしょうか。

岩﨑  現在、週に半分程度を目安に出社することにしており、そのうちの1日を部署ごとにコア日と定めて出社しています。本社はコロナ中に改装をして完全フリーアドレスにしていますので、全員が出社すると席が埋まってしまう懸念があるため、部署ごとに出社状況を調整しています。実は、2020年の東京オリンピック前に、国の推奨もあり、過密な出勤時間を解消しようとテレワークを2日間ほど実証実験したこともありました。しかし、実際のコロナ禍でのテレワークを経験したことで、若干懐疑的だったテレワークも「なんだ、やればできるじゃない」といった感覚になりましたね。パソコンもスマホも全員が持っていますし、どこでも仕事できるものだと感じています。ただ、一点、コミュニケーションの足りなさということは確かに生じたと思います。

――  物流関係ではどうでした。

岩﨑  やはり納品先からはドライバーさんのマスクや検温に関しては結構厳しく言われましたから、ドライバーさんや現場の方たちは大変だったと思います。それ以外、輸送に関しては特に大きな問題はありませんでした。

――  コロナ禍が明けた今、2024年問題が大きくクローズアップされています。

岩﨑  そうですね。メーカー側としては、5年前に働き方改革の中で、時間の規制を受けており、2019年11月には国土交通省などが推進する「ホワイト物流」推進運動に賛同し、持続可能な物流の実現に向けた自主行動宣言も発表しています。この宣言では「パレット等の活用」、「発荷主からの入出荷情報等の事前提供」、「集荷先や配送先の集約」、「納品日の集約」、「異常気象時等の運行の中止・中断等」、「車両の大型化」の6項目を挙げて実行しています。

――  2024年問題の課題となっていることをすでに大部分実践されているようですね。

岩﨑  そう言っていただけるとうれしいですね。まじめにやっているんですよ(笑)。ただ、製造業の現場では残業時間が60時間規制で、施設の敷地の中だけで時間管理することはできても、今回はドライバーさんですから、運行を始めるとどこで何をしているかがよくわからないというのが現実です。2024年問題では、発荷主側として、ドライバーさんの負担が減るような時間の管理をすることが求められていますので、これはなかなか大変なことです。つまり、発荷主側に課題が多いということと、それを修正していけるのは、発荷主側にそれなりの規模感と体力があるという認識だと思いますので、真剣に応えていきたいと思います。

――  宣言に出た部分だけでも実践されているということは立派だと思います。何か課題はありましたか。

岩﨑  実践していることは確かですが、まだまた稚拙というか、細かな部分まで目が届いていないのが実情です。ホワイト物流を宣言した時に大きな課題だったのが、パレタイズです。社内の幹線輸送は現在95%を超えるパレット輸送を行っています。また、重量物ですので、過積載にも注意が必要です。パレタイズ化するときはパレットの自重も積載重量に含まれますから、重量にかなり気を遣い上限6割まで、10t車なら6tまでと社内的な基準を設けました。

――  過積載はまだまだなくなりませんね。

岩﨑  結局、発荷主は荷物を渡す方なので、受け取る側、輸送側は頼まれれば引き受けざるを得ないという立場だったと思います。そこに過積載を生む土壌があったということです。我々もそのような迷惑をかけてはいけないということで、かなり熱心に取り組んだことを記憶しています。約6年前でしたね。

<空パレットを重ねてフォークリフトで移動する様子>
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<「首都圏DC」GTPのピッキングの様子>
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<「Y-Caps」によるパレット・トラックへの積み付けを最適化した姿図(右)姿図通り積み付けしたトラックの荷台>
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パレタイズ化で物流改革を進化させる

――  御社の基本的な荷物である建材と言うと重くて大きいというイメージがあります。

岩﨑  カーポートや組み立てられた商品等、大きくて重い、寸法も様々で、運ぶ側からすれば結構嫌がられると思います。例えば窓でしたら、動く部分は障子といいますが、障子が1枚1枚あり、それに枠があります。さらに、最近は大開口の窓が増えており、引違い窓であれば、障子の幅は2分の1になりますが、枠の長さはそのままの長さで運ばなくてはなりません。商品によっては、ばらばらにしないで、四角に組み立てて運ばなければならない商品もあります。玄関のドアなんかもそうですね。

――  パレタイズ化するまでは人力でやっていたのですか。

岩﨑  そうです。手積み、手下ろしでした。10t車に7~8人かけて3時間くらいかけて、目いっぱい隙間なく積み込んでいました。当時は、それが積載効率として正しいと思われていた時代です。私が物流に携わるかなり以前の話ですが。そのような苦役とも言える作業を行ってもらっていた物流事業者さんには本当につらい思いをさせたと思っています。パレタイズ化を始めたのが2014年ですから、約10年たちますね。

――  ホワイト物流宣言の前から進めていたわけですね。

岩﨑  そうですね。当時、パレタイズを始めるからということで、経営陣に提案し億の単位で購入費用を認めてもらいました。当初5万台のパレットを保有してましたが、それを物流センターの中で管理したり、物の保管に利用したりで、圧倒的に足りなくなり、3年くらいかけて2万台ぐらい追加購入しました。

――  他の建材企業でもパレタイズ化は進んでいますか。標準化等については業界でも進んでいるのですか。

岩﨑  大手競合他社でもパレタイズ化は進んでいると思います。業界でのパレット標準化はそれぞれが一長一短でなかなか難しいところです。「建材・住設物流研究会」という会があり、6社の物流責任者で議論していますが、現在全産業的にはT11やT12がベースになりつつありますが、それには私どもの商品が全く合いません。建材メーカーそれぞれが個別にパレットを作っているのはそこに背景があります。

――  パレットの標準化は業界の特異性から難しいとする反面、どんなパレットも扱えるようにする逆転の発想を述べられる方もいます。

岩﨑  そうですね。例えば新しい倉庫を開設するにしても、よくデベロッパーの方が垂直搬送機を何基装備していますと、アピールされますが、平パレットならとても効率的でしょうが、我々のパレットは載らないんですね。というのも、我々がパレットを購入した時に、輸送用に作ったというのが工夫としてあります。1.5倍の重量を載るようにし、返却するときの重なりも考えて、返却能力を2割アップさせています。さらに、YKK APが、これからの窓を追求した高品質のシリーズ「APW」を強力に推進しているのですが、この「APW」はスタートの工場で載せたら、最後まで触らないでいいようにしています。これによって積載効率は落ちますが、ドライバーの負担というか、中間業務にあたる人々の負担、それらをなくそうとしているわけです。だからパレットだけでも7種類ほど作りました。この3~4年で大きく3タイプくらい作っています。これは輸送に限ってはとても使い勝手が良いのです。

――  ドライバーの負担を減らそうとしたらパレットの種類が増えたということですね。

岩﨑  だからと言って、パレットの標準化は無理ということではなく、「建材・住設物流研究会」でも議論していますし、顧客とか物流事業者と話していると、いろいろヒントをもらえます。一緒に考えて実行すればもっともっと合理化できるものと思っています。

――  共同配送という手法も一般的になってきましたね。

岩﨑  すでに競合である建材3社でも共同配送を進めています。その先に、最後に荷物が集まる場所を共同でやれば、その先は一本化されるはずなので、センター運営を一緒にやろうという話も出ています。例えば、一つのアイデアですが、共同出資して別会社、建材を運ぶ会社を作ってセンター運営していくということです。実務は物流事業者に担っていただくことになります。我々が競争する部分は商品ですから、運ぶ部分は競争ではないですね。ただ、まだまだ越えなければならない壁はあるでしょうね。

<「首都圏DC」が入る「ESR加須ディストリビューションセンター2」外観>
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<「首都圏DC」棚搬送型ロボット>
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<YKK APの物流拠点と生産拠点(2023年10月時点)>
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リーマンショック後、物流の重要性再認識

――  御社の物流拠点は、以前はTC主体で、現在はDCに切り替えられていますが、その理由とは。

岩﨑  物流拠点は全国に11拠点あり、DCは7か所、TCは4か所です。従来在庫を持たないTCの形態で進めてきたのは、生産拠点の隣接倉庫に在庫保管し、受注確定したものを配送するのが従来の物流施策でした。これはコスト重視(横持輸送廃止)を目的にDCからTCに変更したもの。ところが2024年問題(時間外労働時間の上限規制)や脱炭素への対応、物流DXの高度化が進んだことから、在庫可能な商品は需要地で適正在庫し、納品リードタイムを遵守するとした物流政策に改めたものです。

――  首都圏DCを、昨年9月に「ESR加須ディストリビューションセンター2」に開設されましたね。

岩﨑  これまでは、首都圏DCがなく、北陸DCが首都圏のバックヤードでした。なので、翌日届けるためには夜間に運行をすることが必須でした。2024年問題(上限規制)に関わる長距離輸送に代わる物流体制の構築の一環でセンターを設置しました。元々、千葉県柏市に工場とDCを有していましたが、リーマンショック後の会社の立て直しとして、閉鎖をした歴史があります。2008年から第3次中期経営計画を定め抜本的な改革を行い、そこでは7つの大きな政策があり、そのうちの一つがロジスティクスの改革だったわけです。私がロジスティクスに携わるようになったのは2007年からで、当時の社長から改革案を出すように指示されました。

――  当時の荷主側のロジスティクス改革だと、物流費を削減するというのが一般的でしたね。

岩﨑  そうでしたね。しかし、当時の社長は「そんな単純なことじゃない」ということで、毎月2回ほど、直接社長にレクチャーを受けるというかレビューをして、課題を与えられて報告することになりました。1年間くらいは、ほぼ毎日調査したり学んだりした結果を報告資料とするわけです。とても勉強になりました。よく覚えているのが、「日本は米国のカリフォルニア州くらいでしょ」と。要するに、「そんな狭い範囲の中でなんでこんなことをやっているのか。もっと大きく物事を捉えなさい」ということでした。その後、改革案を練り上げ、骨格を定めて、会議で発表するわけです。そこで、さきほど説明したパレタイズ化をはじめとする、各種のロジスティクス改革案を発表し、今日につながるロジスティクス改革の実行に繫がっていると思います。

――  ロジスティクス改革の集大成のような首都圏DCを見学させてもらいましたが、とても先進的で近未来的な物流施設で驚きました。開設にあたってのポイントは何だったのでしょうか。

岩﨑  小物商品の管理のポイントは人手不足解消、省力化ということです。首都圏DCでの出荷先は100か所になります。以前なら、ピッキング時に商品棚の同じところに何人もが取りに行くといったことがありましたが、ここではAGVが自動搬出してくれるようにしています。今日の出荷データで判断して1日に1回しか運ばれてこない棚もありますが、そこから出荷する商品を取り出し、QRコードを読み取り100か所への出荷先ごとのラベルを発行するものです。これまで延べ10人位で行っていたことが1人か2人で完結できるようになりました。投資対効果でいうと、もう少しチャレンジできると思っています。

――  写真を見ると小さいタイプのものが主ですね。大きな商材は別の形ですか。

岩﨑  大きな商材は別の形でチャレンジしています。縦型の大きな搬送装置で行っており、見たら驚かれると思います。搬送装置を一緒に製作した業者からは「こんなことを考えたことなかった」と言われましたね。春までには本格稼働する予定です。

<岩﨑執行役員>
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<「首都圏DC」開設による即納品の作業工程の変化の例>
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物流事業者はエッセンシャルワーカー

――  現在、御社にとっての課題とは何でしょう。

岩﨑  首都圏DCの稼働によりロジスティクス改革は一段落ですが、需要が増えてくると、関西が手狭になってきているので、多少てこ入れが必要かなと思っています。今一番の課題はやはり2024年問題で、国が物流という業態自体を大きく変革しようとしているわけですから、メーカーとしてもしっかりそこに責任をもってやっていかなければならないと思っています。それを実行してはじめて取引先や物流事業者との友好的な信頼関係が築けるものと思っています。

――  確かに現実的には今のままですと運べない危機・運んでもらえない危機が確実に訪れることになりますからね。

岩﨑  確かにそうですね。当社では何事も自分たちでやるという「一貫生産」の基本的な精神があります。自分たちでできるものは自分たちで作ろうと。物流面でも思い切って舵を切って、自分たちも物流事業者と同様に運ぶというような大胆な改革案を考えなければならない時期に来ているのかもしれないですね。

――  2024年問題の大きな課題の一つに荷待ち・荷役時間2時間以内の達成が求められています。御社ではいかがですか。

岩﨑  まだ完全にクリアしていません。調査したところ1割くらいがクリアできていません。なぜ2時間を超えたのかをデータをとって原因分析していますが、どうすれば抑えられるかにチャレンジしている最中です。これができないと、多くの人から信頼を失い、本当に運んでもらえないことになります。この1~2年は取引先からも商慣習などもあり、辛辣なこともいろいろ言われてきました。それが現場の現実でしょう。これは当社の経営陣も強く認識しています。物流改革基本パッケージのガイドラインで、経営陣の中に物流を統括して管理する役割が求められていますが、当社でもその体制を目指しています。

――  CLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)ですね。運んでいる物流量の何割かのシェアを占めている企業は、そういう責任者を置きなさいということで、3000から6000社くらいに誕生すると言われています。

岩﨑  国の方向性でもあるので、弊社としてもそのあたりのことも検討しています。

――  これまで物流事業者はコスト削減の対象とみられることが多く、荷主に強い要請ができないことが多かったと思います。

岩﨑  コスト削減と共に商慣習も大きかったと思います。物流事業者はコロナの時に感じましたが、まさにエッセンシャルワーカーだと思います。全く止まらず、休まずにライフラインを守っているわけですから。2024年問題はスタートしたばかりで、2024年で終わりではないですからね。これは荷主側も運んでもらえない危機感で大変ですし、物流事業者もドライバーのなり手が少ない、多重下請け構造等の問題もありますから、今後物流環境を良好にしていくには、お互い努力が必要でしょうね。

――  本当に大変な時期に物流担当ということですけど、ストレス等はありませんか。

岩﨑  あまり言いたくないのですが、ストレスチェックすると「あなたにストレスはありません」と診断されました。これは間違っていると思いますね(笑)。最近ゴルフを再開していますし、お酒も飲んでいます。何より多くの人と様々な話をしていることがストレスを発散できているのかもしれません。製造出身者としては珍しいことに私は営業系の方々とも多く話しており、2024年問題についても問題意識を持ってくれ理解してくれています。

――  2024年問題に先駆けて物流改革を図っていった会社の姿勢が覗えました。どうもありがとうございました。

取材・執筆 山内公雄 近藤照美

<岩﨑執行役員ロジスティクス部長>
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■プロフィール
岩﨑 稔(いわさき みのる)
1984年 3月 YKK北海道工業入社 樹脂サッシライン
2004年 1月 YKK AP供給統括部 供給企画室長
2008年 10月 YKK APロジスティクスプロジェクト 企画担当
2009年 4月 YKK APロジスティクス統括部 企画部長
2019年 4月 YKK AP生産本部 ロジスティクス部 部長
2020年 4月 YKK APロジスティクス部 執行役員・部長

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