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物流最前線/JPIC森理事長に聞く、フィジカルインターネットとは

2024年03月04日/物流最前線

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最近、物流施策等でよく耳にする「フィジカルインターネット」。もともとは海外で学問的に研究されてきた物流の新しいあり方だが、日本でも実現に向け政府レベルのロードマップが策定されている。2024年問題が迫るなか、産官学を挙げて実現に取り組んでおり、その主幹団体となるのがフィジカルインターネットセンター(JPIC)だ。理事長を務める流通科学大学の森 隆行名誉教授は「物流はいつでも手に入る時代は終わり、パラダイムシフトが起きている。今年はフィジカルインターネット元年になる」とし、フィジカルインターネットに関する調査研究や普及啓発、人材育成など様々な取り組みを行っている。法改正により対象企業に設置が義務付けられる物流戦略を統括的に意思決定する「物流統括責任者CLO(チーフロジスティクスオフィサー)」のサポートに向けた準備もその一つ。森理事長に社会実装に向けての取り組みや今後の展望を聞いた。取材日:1月29日 於:LNEWS編集部

目指すのは「究極の」
オープンな共同物流構築

―― はじめに、「フィジカルインターネット」とは。

  一言でいえば、フィジカルインターネットは縦横のつながりをオープンにした「究極の」共同物流です。今、食品業界では部分的にやられていますが、あれを本当に、誰でも参加できるようにしたシステムです。例えば求車求貸システムでも今はクローズドですよね。2024年問題でトラックの積載率が4割を切っていることも課題になっていますが、共同物流が広まれば、少しでも改善すると思っています。

一部の人には「そんなもの、できるわけないだろう」って言われるんですよね(笑)。パレットだけで何百種類もあるのに、未だ統一できないじゃないか、と。もちろん我々もフィジカルインターネットで「究極の」と目標を掲げてはいますが、それが100%でなくても、少しでも近づければ、2024年問題や物流効率化に貢献できると思っています。

――  2024年4月は目の前ですが、いつから活動されているのですか。

  センターは民間のヤマトグループ総合研究所および、2018年に内閣府主導で実施された「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で行われたスマート物流実証の後継団体として、2022年6月に設立しました。行政による「スマート物流サービス」というコンセプトと、民間の研究機関の2つの流れを受け継ぐ形で活動を開始しました。

その後、昨年10月に組織を一新して再スタートし、改めて2024年問題など大きな社会課題、物流ニーズの多様化、環境問題などに少しでも貢献できればと思っています。目指す世界観は「物流の全体最適化をいかに実現するか」。そのためにはデータの見える化や標準化が必要です。共同物流には水平統合、垂直統合が欠かせません。そのあたりをみながらビジョンを掲げています。

――  フィジカルインターネットが描くビジョンとは。

  食品や日用雑貨などの消費財、材料品などの物流を同じ「モノ」の移動として捉え、物流情報、物流センター、トラックや鉄道、そこで働く人材などのシェアリングを目指します。フィジカルインターネットによって物流の安定供給と環境負荷の低減に貢献することが目標です。

<目指す世界観 提供:JPIC>
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――  どのような活動をしているのですか。

  フィジカルインターネットに関する啓もう活動・調査・研究などを行っています。1つはSIPの活動から引き継いだフィジカルインターネット実現ロードマップでの、物流・商流のプラットフォームが私たちの領域になるかと思います。ゴールはSIPで示されたのと同じように、効率性、強靭性、良質な雇用の確保、成長産業としての物流。ユニバーサルサービス、社会インフラとしての物流を実現することです。

もう一つは、現在の総合物流施策大綱にも掲げられている、物流DXやデジタルトランスフォーメーションや物流標準化推進におけるサプライチェーン全体の徹底した最適化、簡素で滑らかな物流。これを実現し、高度人材確保までを含めた領域の達成を目指します。

――  現在、会員数はどれくらいですか。

   昨年秋以降、会員数は拡大して約14社となっています。さらに加盟を表明していただいている企業も数社あります。会員企業を対象にワークショップやセミナーの他にも、国土交通省や経済産業省など関係省庁が推進する事業受託などの標準化事業、一般向けのシンポジウムも開催しています。官民の中継とした役割ですね。国際連携として、フィジカルインターネットを目指す欧州等との情報連携や海外動向調査なども行っています。

――  幅広い領域ですね。2月には都内で「フィジカルインターネット2024」シンポジウムを開催されるとか。

   実は集まらなかったら大変だと思っていて、オンラインと併用で、できれば会場で150人、オンラインも含めて300人ぐらい集めたいと思っていたのですが、結果的に1000人近くの参加申込がありました。

――  2024年問題もあり、注目度が上がってきていますね。

   昨年、2024年問題対策として政府から「物流改新に向けた政策パッケージ」が示され、各企業に役員クラスの物流統括責任者(CLO)を置きましょうという内容が盛り込まれています。フィジカルインターネットセンターとしてもこの活動をサポートする意味から、物流専門家集団として新たにCLOの交流・研鑽の場として、CLO協議会を立ち上げたいと思っています。早い段階で立ち上げ、多くのCLOの参加をお願いしたいですね。

日本ではまだ少数派のCLO
米国では8割以上の企業が設置

<JPIC 森 隆行 理事長>
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――  物流統括責任者(CLO)の設置についてはどうお考えですか。

  今度のCLOの設置というのは、個人的にとても期待しています。例えば米国では80数%の企業にCLOがいると聞きます。CLOと、もう1つチーフサプライチェーンオフィサー(CSCO)という呼び方をする企業も欧州にはあるようですね。

――  日本でのCLOというと。

   フィジカルインターネットセンターで理事をしている日清食品の深井雅裕さんは、サプライチェーン本部長ですが、彼は財務以外、生産から販売関係のほぼ全部管轄下にあると言っていました。ヨーロッパでは日清はCSCOという言い方をしていて、米国は副社長がサプライチェーンを担当しているそうです。何かの記事で読みましたが、米国では2016年時点で86%の企業でCLOを置いていると。そう考えるとやはり日本はこれまで、物流に対して冷淡というか無関心だったと思います。

――  物流部長とCLOは違うのですか。

  物流部長とCLOは全然違います。政府も法案化にあたって、役員クラスの物流担当者を置くことを義務付ける方針ですよね。部長では経営会議まで入っていけない。そういう意味では、深井さんもおっしゃっていましたが、CLOが設置されることで物流に対する考え方も変わり、日常的に物流が経営の課題になってくるだろうと。今まで経営課題に上がらなかったのは、物流やトラックはいつでも必要なときに、それも安い値段で手に入ると思っていたからだと思います。これから大きく物流分野で人材が必要となり、大学教育にも若干影響が出てくるのではないかと思っています。

――  高度な物流人材育成が求められると。

  私は1997年から2001まで4年間、ドイツで倉庫の仕事をしていて、DHLなど物流会社から提案を受ける席で、一緒に話を聞かせてもらったりしましたが、その時のDHLの担当者はMBAを取得していました。また若く、当時、新規開拓の部門でチーフは30歳ぐらい。20代でも高学歴で、大学院を出ている人もいました。もう20年ほど前ですが、その頃からやはり欧州、米国では高学歴化し、物流に対する考え方も変わってきていました。日本は相変わらず、「物流」というと倉庫で走り回っているようなイメージがありますが、これから変わってくるのではと期待しています。

――  日本で物流を経営課題として捉える企業はまだ少ないのですか。

  少ないですね。逆に欧州や米国では、製造販売部門役員よりロジスティクス担当役員のポジションが上という企業が多いようです。社長に一番近いポジションがCLOです。これからCLOが生まれると、そういう意味でも変わってくる。2024年は我々も含めてフィジカルインターネット元年として、全体を盛り上げていきたいですね。

――  今後、日本でCLOの団体などもできてくるのでしょうか。

   国会で法案がそのまま通れば、2025年から多くのCLOが誕生します。おそらく3000~5000社が規制の対象になるそうですが、ほとんどの人が「CLOって何?」という、任命する方も任命された方もそういう状態ではないかということが、懸念事項としてあります。そういう人たちの集まりの場としてCLO協議会のような、横のつながりのような組織があれば、と経産省の方とも検討しています。

それからもう1つ、例えば省エネ法ではCO2の削減目標などの成果目標がありますが、あれと同じような形で、物流に対する効率化の目標を設定して、それに対して評価する、これがCLOの役割になるのですが、これを公表しなくてはいけないと。実はその評価基準について、どのようにレポートすればいいかというのは、まだ全然決まってないのです。その評価基準などを作る必要があり、その辺りもフィジカルインターネットセンターでやってほしいと、期待されています。

――  企業の物流への取り組みが評価される時代になるのですね。

   荷主にとってはこれまで輸送、物流は安いものだと、いつでも手に入るというのが常識だったかもしませんが、やはりパラダイムシフトというか、そういう時代は終わったと思います。だから物流というのは真剣にやらないと止まる、止まると企業活動は存続できない。そういう時代になったのだと思います。だからこそ社会課題なのだと。

海外市場との連携も視野に
標準化やISOにも取り組む

<フィジカルインターネットロードマップでの位置づけ 提供:JPIC>
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――  共同輸配送には企業間のシステム連携が必要ですが難しいと聞きます。

   難しいですね。プロトコルという言い方をしますが、フィジカルインターネットでは、やはり情報のプロコトルや基盤の共有化が必要です。情報を連携するだけでなく、同じ共通のアプリを使うというようなことですね。

――  国内での社会実装とともに今後、海外連携もしていくのですか。

   究極はそうですね。例えば、海外輸送の領域では20フィーター、40フィーターというようなコンテナがありますよね。あの中に、小さい容器に入った荷物を入れて、それがそのまま配送されるというイメージです。特に問題は小口貨物ですね。モーダルシフトといわれていますが、シャーシ単位やトラック単位の大口はいいとして、1トン、2トンの小口貨物を扱うフォワーダーは国際輸送にはありますが、国内輸送ではあまりない。特に今、国境を越えたeコマースが増えてきているので、最終的にはグローバルな連携というのが目標ですが、そこで取り組むべきこととしてISO規格の問題も出てきます。

――  ISO規格の問題というと?

   ISOは基本的には欧州が主導していますが、近年、物流分野では中国や韓国が多くの提案を出しています。スポーツでもそうですが、ルールを作った国が有利です。ISOでは提案した国が議長国になることが多い。日本はフィジカルインターネットのロードマップを作ったということでは評価されていますが、実はISOに対する取り組みは遅れていて、規格を作るという発想がないのです。2016年から5~6年でISOの申請があったのは、中国が16件でダントツ1位。2位のフランスは6件、日本は2件。そういう意味でも、フィジカルインターネットにおいても、早くヨーロッパに追いついて、対等な立場で最終的なISO化のときに、共同提案ぐらいまでにはもっていきたいなと考えています。

――  近年では世界的に環境問題への対応も求められていますね。

   そうですね。例えば 昨年3月にできた「ISO14083」では、CO2やGHGの排出量を計算してレポートするという規格ですが、欧州の規格が国際規格になっています。今、環境問題については特に欧州では厳密で、日本でつくられた製品が欧州の消費者に渡るとき、日本のやり方で排出量を算定しても基準が違うと意味がないですよね、いくら日本のほうが優れていても。

もう一つ私が心配しているのは、欧州では環境問題でリターナブルな容器を使うことが法制化されるということもあり、これがそのままISO化されると、日本の段ボールは使えなくなるという可能性です。欧州や米国では段ボールは再生可能ではなく、使い捨てなので、考え方が違う。ISO化に関する議論に日本も参加して主張して、これからルールづくりのなかに入っていく必要があります。

――  そこもフィジカルインターネットセンターがカバーする領域なのですか。

  物流の効率化を進めていくなかでは、やはり物流の専門家を抱えていることが強みになると思います。そういう意味で領域をあまり細かく捉えず、広く物流全体の効率化として捉えてもいいのかなと思っています。率直にいうと、「これが領域」というのも手探りで、自分たちのテリトリーはどこまでか、今の段階で出来上がってしまうと、「これはうちには関係ない」という話になってしまいます。会員企業を集めることも含めてフレキシブルに、それが役立つことなら取り込んでもいいかなと、私個人としては思っています。それが相乗効果となり、会員企業が増えていけばいいですね。

――  最後に抱負をお願いします。

  2024年問題もあり、今後フィジカルインターネットは注目されてくると思います。実はフィジカルインターネットの国際会議が10年前から毎年1回開かれていて、コロナ過を経て昨年はアテネ、今年は米国ジョージア州のサバンナで開催予定ですが、2年後くらいには日本でも開催したいと思っています。我々は、フィジカルインターネットの研究をリードしている米国のジョージア工科大学とパリ国立高等鉱業学校とMOU(基本合意書)を結んでおり、彼らと密に連絡を取り合いながら国際的な視点での活動に取り組んでいきたいと考えています。そこに日本のCLOの方々にもぜひ参加していただきたいと思っています。まずは、フィジカルインターネットを知ってもらう。そして多くの企業に参加してただくよう努めていきます。

取材・執筆 近藤照美 山内公雄

<JPIC 森 隆行 理事長>
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■プロフィール
森 隆行(もり たかゆき)
1952年 徳島生まれ
大阪市立大学商学部卒業
1975年 大阪商船三井船舶 入社
大阪支店輸出二課長、広報課長、営業調査室室長代理、
1997年 AMT freight GmbH(Deutscheland)社長
2004年 商船三井営業調査室主任研究員
2005年・2006年 東京海洋大学海洋工学部海事システム学科講師(兼務)
青山学院大学経済学部非常勤講師(兼務)
2006年4月 流通科学大学商学部教授
2010年 タイ王国タマサート大学客員教授
2010年~2017年 神戸大学海事科学研究科国際海事センター客員教授
2015年~ タイ王国マエファルーン大学特別講師
2021年3月 流通科学大学定年退職
2021年4月 流通科学大学名誉教授
2023年 フィジカルインターネットセンター理事長

著書『物流とSDGs』、『モーダルシフトと内航海運』(共著)、『海上物流を支える若者たち』ほか多数。

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