物流施設の開発に乗り出すデベロッパーが増え、いまや施設の供給が需要を上回ると言われる時代に。そのような中、三井不動産は2012年の参入以降、78件・総延床面積約610万m2を開発。2025年度も6件着工し、累計総投資額は約1兆3000億円に拡大する計画を発表した。篠塚 常務執行役員は「ただ倉庫をつくって貸すだけの事業ではない」と意気込む。三井不動産の描く物流施設開発事業の未来図と、他社の物流施設と差別化をどう図るのか、現状や今後の展開を聞いた。 (取材日:2025年8月29日、於:三井不動産本社)
竣工即満床とはいかない時代
覚悟が必要だった本部長就任
―― ロジスティクス本部長に2024年4月に就任し1年半たちます。振り返ってみて、着任時の思いなど、いかがですか。
篠塚 もともと商業施設の部署が長かったですし、ロジスティクス本部へ2021年4月に異動して3年でしたから、急な辞令に正直びっくりしました。
それでも、一貫して土地を買う仕事をしてきた身としては、物流施設開発との相性は良かったと思います。最初は物流業界の専門用語が分からないこともありましたが、当社はわりと人数の少ない会社(約1900人)で、社内外の交流もさかんなので、スムーズに物流業界に入れました。
思い出すのは、以前は社内で「物流部門がぐんぐん伸びている」といった話題を身近に聞いていたのに、私が本部長に就く頃には環境が変化していて、「覚悟しなければ。今後も成長させていくには、こちらも変化が必要だ」と感じたことですね。
―― ここ十数年で物流施設開発に参入するプレーヤーが非常に増えました。ちょうど本部長になられた頃からシビアになっています。
篠塚 当社は2012年、ロジスティクス事業に参入しました。当時は他社含めて、「竣工即満床」になっている物件が多くありました。
ところが急にプレーヤーが増え、2022~2023年には供給増と円安や建築費高騰などが重なり、マーケットが以前とは違うステージに移ったと感じます。これからは競争力がないと勝てません。供給は増えながらも、まだ需要があるのも事実ですから。
―― 「2024年問題」の影響を受けましたか。
篠塚 分かりやすい変化は、荷役時間や荷待ち時間の削減に向けて、物流施設をつくる段階からトラックバースに予約システムを入れることを標準化した点などです。
また、実証実験中ですが、トラックバースにAIカメラを設置し、実際どのぐらい時間がかかっているのか可視化して共同輸送を促進する新サービス(仮称)「MFLP&LOGI Berth」の開発に取り組んでいます。
意外と荷主は、荷役時間や荷待ち時間を正確につかめていないのが実情です。こうしたサービスが必ず役に立つと考え、実証実験を行っており、今後の実装を検討しています。物流施設を通じ、時代に合ったサービス提供をしていくことで勝ち残りたいと思っています。
BTS型は適地探しから
冷凍冷蔵倉庫にも注力
―― 御社の物流施設開発の状況を教えてください。
篠塚 最近で言うと、2024年度は「MFLP仙台名取I」(宮城県名取市)、「MFLP名古屋岩倉」(愛知県岩倉市)、「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」(東京都板橋区)、「MFLP横浜新子安」(横浜市鶴見区)の4件が竣工しました。リーシングは順調で、ほぼ満床です。
2025年度は、神奈川県海老名市、埼玉県の三郷市と北葛飾郡、大阪市淀川区、京都府八幡市、茨城県ひたちなか市で計6件の着工を予定しています。
8月現在、竣工済みの物流施設は58件(うち海外4件)、総延床面積は約465万m2に上ります。これから出来るものも合わせると、開発規模は78件、総延床面積は約610万m2。累計総投資額は約1兆3000億円になります。
これまで大規模なマルチテナント型物流施設の開発に取り組んできました。今後はBTS型や冷凍冷蔵倉庫にも注力したいと考えています。開発エリアを広げ、関東圏だけでなく、関西や東北、九州にも増やしたいです。
―― BTS型とマルチテナント型の割合は、今どのぐらいですか。
篠塚 だいたい1対9です。テナントニーズに合わせて開発するうち自ずとBTS型が増えていくでしょうし、増やしたいと思っています。
BTS型を重視する理由は、やはり入居を検討いただく会社によって、物流に対する問題意識が多種多様で、一律の仕様では満足されないケースが多いからです。
要望をよく聞き、それに合った物流施設をつくるための土地を探すところから開発していく、そんな方向に進んでいます。
―― 特に都心部では好立地の土地購入が非常に難しいですよね。どうやって土地を仕入れているのですか。
篠塚 企業秘密ですよ。といっても、当社は不動産会社なので、非常に多くの土地情報を把握しています。その情報をうまく組み合わせることに長けているのだと思います。
例えば、用地部隊にはビル担当やマンション担当などもいて、土地情報を相互に連携、互いに提案し合える環境ができています。「この土地なら商業施設より物流施設をつくるほうがいいんじゃないか」といった相談がすぐにできる。社内のネットワークとコミュニケーションは強みです。この強みは、行政も関わる土地区画整理事業などにおいても生かされます。
―― 今のところ東名阪九の人口が多い地域が中心のようですが、今後、中継地となる地方での開発もお考えですか。
篠塚 中継地でのプロジェクトも検討しています。当社は未進出エリアもありますが、ニーズを見極め積極的に出ていきたいです。
―― 冷凍冷蔵に進出するそうですが、先行するデベロッパーは、マルチテナント型に絞ったり、自動化と無人化に特化したり、特色があります。どんな方針ですか。
篠塚 当社も全くの未経験なわけではなく、既存施設に冷凍冷蔵設備を入れるケースを経験し、ニーズがあることは、かなり前から分かっていました。初めから冷凍冷蔵倉庫としてつくってあるほうが、入居企業にとって負担が少なくありがたいという要望も受けています。
コロナ禍でネットスーパーや冷凍食品が注目を浴びたり、フロンガスの法規制があったり、そもそも庫腹が満床に近い背景もあって、需要が伸びています。
まずは冷凍冷蔵倉庫が集積している船橋エリア(千葉)や厚木エリア(神奈川)を中心に、全館冷凍冷蔵倉庫の開発を検討していきたいと思っています。ドライと冷凍冷蔵ではハード面のつくり込み方が全く違うので、よく研究しながら、焦らず取り組んでいきます。
倉庫をつくり貸すだけでなく
ラボもソリューション提案も
―― 「MFLP船橋」にMFLP&LOGI LabやEC自動化物流センターをつくったり、「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」にドローンの研究開発拠点をつくったり、様々な試みをしていますね。
篠塚 ただ倉庫をつくって貸すだけでなく、産業に寄与する事業として展開したいというのが大きな方針です。それで自分たちのことを「産業デベロッパー」と呼んでいます。
「MFLP&LOGI Lab」では、フルオートメーション物流モデルを展示した体験型ショールームを設け、ソリューション提案するなど、自動化のお手伝いをする機能を物流施設に持たせています。
先ほど話したトラックバースの取り組み(仮称)「MFLP&LOGI Berth」もそうですが、コンサルティングを提供する「MFLP&LOGI Solution」、自動化を提案する「MFLP&LOGI Lab」など、物流課題解決に向けたサービスをシリーズ化することで、物流サプライチェーン全体の基盤強化を支援したいと考えています。
倉庫、オフィス、ラボなど、産業活性化に寄与する複合用途施設の開発を進め、マルチユースな施設とすることで付加価値を高め、地域の産業発展につなげる狙いです。
生成AIやIoTによるニーズ拡大に伴い、データセンターの開発も強化していますし、新産業発信拠点創造プロジェクトとしてインダストリアル領域にも事業拡大を進めています。総合デベロッパーだからこそ、色々な切り口を持っていることが武器になります。
―― ゆくゆくは「物流施設の完全無人化」でしょうか。
篠塚 人口減少で人手不足が加速する中、自動化は避けて通れません。技術的には、完全無人化も可能だと思います。特に冷凍倉庫は労働環境が過酷なので、あり得ますよね。
ただ、どこをどのように自動化したいかは、荷主と物流事業者の考えによります。人がやったほうが効率的な部分も存在し、どこまで無人化したほうが本当に良いのかという課題は残ります。そこで「MFLP&LOGI」シリーズのラボやソリューション提案が生きてきます。
―― 人手不足対策としては、雇用確保できる立地が重要ですが、自動化を進めるのか、外国人材の活用で乗り切るのか、という課題もあります。
篠塚 両輪で行くのだろうと思います。これまで好立地で開発してきましたし、今年度着工する6件もそうですが、いかにうまく稼働させるかを考えると、自動化も外国人材の受け入れも必要になります。この流れは変えられないでしょう。
―― 多国籍な人が働く欧米などの倉庫では、英語が分からない人のためピクトグラム利用が進むなど、工夫が見られます。日本でもそういった対応が必要では。
篠塚 そうですね。物流施設の案内やサインなど、その工夫はまさにデベロッパーが取り組めるところですね。
アメニティ充実は当然
プラスαの機能で勝負
―― 戦略的にショッピングセンターの近くに倉庫をつくる考えはお持ちですか。でも、そうなると商業施設と物流施設で人材を奪い合ってしまうのでしょうか。
篠塚 商業施設と倉庫は相性が良いので、合わせて開発するケースはよく考えています。
実際に、船橋市では商業施設「ららぽーと」があって、多目的イベント施設「ららアリーナ」があって、そばに物流施設「MFLP船橋」もあります。
実は私も最初は、商業施設と物流施設が人材を奪い合わないか心配したのですが、意外とそんなことはありません。人と交流するのが好きでショッピングセンターで接客したい人もいれば、物流施設で技術を磨きコツコツ作業したい人もいる。働き手のすみ分けができているようです。
―― うまくいっているのですね。昔は、倉庫は3K職場と思われていましたが、先進的物流施設がイメージを変えた役割は大きかったですね。
篠塚 当初は「なんで物流施設にそんなきれいなカフェテリアが必要なのか」「そんなにデザインに凝ってどうするのか」といった声も聞こえてきました。
でもやっぱり、働く人が誇りを持てることは重要。「ここで働きたい」と思える施設にするための仕掛けをずっとやってきました。それが他の物流施設と差別化するポイントの一つだと思っています。
ただ、そうしたアメニティの充実も、今ではどこでも取り組んでおり、次の一歩を踏み出す必要があると思っています。
―― 新しい差別化ポイントとは。
篠塚 例えば「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」では地域住民にフットサルコートを開放したり、「MFLP船橋」では毎年イベントを行い2日間で5000人も集まる名物になったりと、物流施設を地域に開かれたものにしています。
また災害に備え、地方自治体と連携して避難場所として利用するなど、物流施設は公共施設的な役割も持つようになってきています。
地域交流にとどまらない、都市インフラとしての「街づくり型物流施設」を開発することで、地域・産業の活性化につながり、差別化できると考えているのです。
そうすることで施設だけでなく街の価値まで上がりますし、結果として良いテナントが入り、良い賃料が入ってくる。そんな好循環を生み出す仕掛けづくりこそ三井不動産の真髄です。
―― 最後に、LNEWS読者にメッセージをお願いします。
篠塚 物流の世界に入って、「物流は社会を支えるインフラだ」とあらためて感じました。私たちの生活が、極めて高いレベルの物流の上に成り立っていると日々痛感します。
当社は商業施設もマンションもホテルも開発しますし、最近ではアリーナのようなエンタメ事業にも進出し、いろんなチャンネルを持っています。どの事業にも物流は付いて回ります。つまり、総合デベロッパーとして、多様な荷主とつながりを持っているところが強みです。
皆さんと力を合わせれば、物流の世界をさらに良くしていけると思います。物流に関わる方々ともっと交流し、業界を盛り上げていきたいので、ぜひ気軽に声をかけてください。
―― ちなみに、プライベートな話になりますが、日ごろの健康管理や趣味などは。
篠塚 ストレス解消法は、よく寝ること。趣味は、あえて挙げるなら語学かな。実は中国と台湾に6年駐在していたことがあり、今でも街なかで聞こえる中国語が気になります。先日、久しぶりに中国へ出張したところ、駐在からもう10年たつのに中国語が口から出てきて、「まだいける!」と嬉しかったですね。
取材・執筆 稲福祐子 山内公雄
■プロフィール
篠塚 寛之(しのづか・ひろゆき)
2018年4月 商業施設本部 リージョナル事業部長
2021年4月 ロジスティクス本部 ロジスティクス事業企画部長
2022年4月 執行役員 ロジスティクス本部 ロジスティクス事業企画部長
2023年4月 執行役員 ロジスティクス本部副本部長 兼 ロジスティクス事業企画部長
2024年4月 執行役員 ロジスティクス本部長
2025年4月 常務執行役員 ロジステティクス本部長
■三井不動産 Webサイト
https://www.mitsuifudosan.co.jp/