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しがらみに縛られる日本の物流
なぜ標準化が世界で可能で日本で困難か

2023年06月23日/物流最前線

<オランダの倉庫で>
20230620nx6r 520x390 - 物流最前線/NX総研・廣島秀敏社長トップインタビュー

<自動化されたオランダの港湾施設。ガントリークレーンはリモートコントロール。ヤード内のコンテナはAGVで実施>
20230620nx7 520x390 - 物流最前線/NX総研・廣島秀敏社長トップインタビュー

物流の発展を止めている
「楽になろうとしない」日本の物流

――  長い海外経験の中で、日本と世界の物流について、その違いについて何か気付かれた点はありますか。

廣島  日本の物流については、以前からそうですが、顧客ごとに物流サービスが作られていった歴史がありますね。産業ごとの違いが大きいうえに、個社間での違いも大きいようです。今でこそ、共同配送が進んできた感はしますが、物流効率化を図るにはさらに踏み込んだ標準化といったものを進めていかないと、本当の意味での機械化、自動化、ロボット化が進み、従来とは大きく変革するDX化といったものも、実現はなかなか難しいと思います。

――  日本では夫々の先端のモノをいち早く取り入れて、各社で物流サービスを競ってはいますが、標準化にはほど遠いですね。

廣島  欧米の物流の発展を見ると、大量輸送時代があり、フォークリフトやコンテナ、パレットと続いています。その発展が日本では一部断絶している部分があります。例えばフォークリフトはパレットで荷役するものですが、パレットで荷役する部分が途中で終わってしまっています。トラックの上では、ドライバーが1個ずつ降ろして、配達先では、また別のパレットが出てきて、それに1個ずつ積んでいると。ドライバーがそこまでやらないといけないのかと思います。パレットは本来、そのまま運んでそのまま降ろすためのものなのに、全然活用しきれていません。

――  個社間での物流システムの違いですね。

廣島  そうですね。発側と着側が違う仕様でやっているからとか、パレットの管理が大変だとか、積み替えや仕分け作業はドライバーに任せておけば良いだとか、なんだかんだで一向に解決できないわけです。欧米では、パレットとトレーラーが導入されてトラック輸送が効率良くできるようになりました。トレーラーを切り離してドライバーは他のトレーラーを繋いで走行できるわけで、荷積み荷下ろししている間、待機する必要はありません。さらにコンテナ輸送を発達させましたが、これも日本では活用しきれていません。元来、コンテナは出荷地から到着地までコンテナで運ぶために作られたものです。しかし、日本ではコンテナをつけられるドックがないものだから、港で降ろしてトラックに積み替えすることもあります。作業を増やしているだけで、本来のコンテナを活用しきれていないわけです。

――  それはどうしてそのようになったのでしょうか。

廣島  個人的な考えでは、効率を良くして作業を楽にしようという考えが、あまり日本にはなかったのかもしれません。労働に生きがいを見出すために、または顧客に喜んでもらえるから、大変でも自分でやろうとする。日本人らしいですね。

――  日本人の思い入れというか、生真面目さでしょうか。確かに、顧客にとってプラス面もあったと思いますが、今やそれが足かせとなっている面も否定できませんね。

廣島  そういった思い入れがそれぞれの産業のそれぞれの物流サイクルの中で、出来上がっていて、その中に入ってしまえば、ある程度楽になるのかもしれませんね。しかし、伝票やシステムが違うから自社のシステムと連携できないといったことは往々にしてあり、なかなか標準化ができていません。

――  標準化というのは、イコール、システムということでしょうか。

廣島  仕組みということであればそうです。パレットのサイズも日本ではいろいろありますが、ISOコンテナに合わせたサイズ、できれば海外の標準サイズにすれば、そのまま同じパレットで世界中に循環させることができると思います。今は、産業ごとでもパレットのサイズは違いますね。トラックもトレーラー化し、荷台もパレットに合わせ、道路や倉庫のドックもそれに合わせていけば標準化が進みます。

――  日本でも、最近はパレットの標準化も含め、あらゆる標準化が話題になっていますね。

廣島  そういう動きはありますね。以前、物流博物館で「荷役近代化の父・平原直」という特別展を見ました。この方は戦後まもなくからパレットを導入して、労働者を苦役から解放し効率的な荷役を実現しようと提唱していましたが、それがいまだに実現できていない。当時から何十年も経っているんですけどね。都市計画でも同様です。例えば、英国では、歴史的に工場と住宅地は混在しないように、工場を建て替えるとき、そこが住宅地であれば、工業地区に転出させるといった法律による施策を行っています。しかし、日本では住宅地と工場が混在する地域が多く、そうするとコンテナのままで住宅地や街の中を運ぶことがなかなか難しく、一向に効率化が進まないことになります。

――  国も「物流大綱」等を作り、政策の実現に向けて動いていますが、今のところ実効性が伴っていない感じですね。

廣島  そうですね。例えば鉄道でも、西洋は必ず港湾のふ頭まで入ってきており、そこで直接積んで内陸地まで運んでいますが、日本では昔はあった引き込み線も利用することなく、港ではほとんど使われていません。日本ではトンネルが多くコンテナが通らない、といった理由もあるようですがもったいないですね。横浜に南本牧ふ頭がありますが、すぐ近くまで線路が来ており、もう少し引き延ばしてコンテナを運べるようにして、内陸にデポを設ければ良いのです。そうすれば混雑した東京の港に入ってトレーラーが何時間待っても積み込みができない問題も、大幅に解消できますね。

――  鉄道では、モーダルシフトも進展はしていますが、まだまだ物流を変えるまでには至っていません。

廣島  米国のような長距離なら大きな効果が出せますが、日本だと距離が短いので効果が低いのだと思います。でも、もう少し鉄道は利用されて良いものだと思いますね。

――  最近では、ドライバーの労働時間短縮や人出不足ということで2024年問題が注目されていますが、LNEWSの今年4月の調査によると、その対策を実行しているかについて尋ねたところ、3分の2が計画中か何もしていないということで、意外とのんびりしているなという結果になっています。

廣島  ドライバーの確保は物流事業者だけでなく、荷主にとっても消費者にとっても今後死活問題になりますね。一般国民には、宅配便などで小口のドライバーの姿を目にする機会が多いと思いますが、実は最も大切な幹線輸送がこのままだと成り立たなくなります。特に生鮮食品の輸送では、積み込みや荷下ろし、仕分けまであって大変な作業量なので、時間の規制となれば、相当難しいことになると思います。

――  政府はこの6月を目途に物流革新に向けた「政策パッケージ」を発表するとしていますが、荷待ち時間については相当議論されています。

廣島  現在は、ドライバーが荷待ち時間にプラスして、荷台で卸業者ごとに仕分け作業している状態ですから、どうなることでしょうね。法制化については、来年制定され、再来年には正式に施行されるでしょうが、2024年までには間に合いませんね。

――  コンサルタント会社として物流事業者にアドバイスを贈るとなると。

廣島  物流事業者にできることは限られており、まさにケース・バイ・ケースになります。荷主の協力がなければ現状を変えることはできません。物流事業者はまず現状をきちんと把握して、荷待ちや積み下ろし作業の時間と金額面についてきちんと発荷主と着荷主に伝えて、理解してもらうことだと思います。今の時間と金額ではここまでしかできない旨をはっきりと伝えて交渉することだと思います。大手の物流事業者はできるでしょうが、中小の物流事業者になると、まずはドライバーの実際の業務と時間の把握もできていないところが多いと思います。当社でも出している「どらたん」というツールがありますが、そのようなツールでドライバーの時間の実態を把握することが基本的に必要です。交渉で、荷主側から「ほかの業者に頼むよ」ということになるかもしれませんが、おそらく来年からは「ほかの業者」に頼むなんてことは不可能になってくるはずです。

――  その中で、ドライバーの実質賃金の上昇ということも実現していかなければなりません。

廣島  そこで荷主の理解が必要なわけです。運賃の正常・適正な価格とはどういうものかをもう一度真剣に考えなければなりません。荷主と協力して、生産性を上げないと賃金上昇は叶いません。当社の顧問が欧米と日本のトラックドライバーの生産性を長年記録しているものがいますが、欧米に比べて5割の生産性のままだと言っています。日本特有の商習慣や積載率が悪くても翌日配送しなくちゃいけないとか、交通渋滞等の要素なども絡んできますが、生産性をアップする中で賃金の元となる原資を獲得していく努力がますます必要になる時代だと思っています。

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