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自社現場で実証の技術
IE×DXで物流現場最適化

2022年10月04日/物流最前線

<彩都パーツセンター>
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<彩都パーツセンター庫内>
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物流現場最適化のカギは「標準化」

――  パナソニックは家電メーカーとしてのイメージが強いのですが、なぜ物流向けのソリューションを提供しているのでしょうか。

一力  パナソニックでは2018年からDXの取り組みとして「現場プロセスイノベーション」を推進しており、SCM分野に注力しています。このなかで提供しているのが、製造、物流、流通の各現場を最適化する「現場最適化ソリューション」です。現場最適化ソリューションは、パナソニックが長年にわたり、モノづくりの現場で繰り返し実践してきたIEの知見と、強みであるセンシングやAI画像認識などのデジタル技術とを組み合わせたものです。

物流向けのソリューションは、当社の物流センターで実際に運用しているものをサービス化したもので、もともとは自社のオペレーション改善のために開発したものですが、社外からも物流現場の改善に対する相談を受けるようになり、自社で成果が出た仕組みをソリューションとして社外に展開しました。自分達で上手く行ったものを社外に展開した結果ニーズがあったという訳です。今では自社で成果を上げたソリューションを社外に展開するというビジネスモデルができあがっています。パナソニックの強みは自社で現場を持っていることです。全てのソリューションには現場で培ったノウハウが詰まっています。

<彩都パーツセンターの天井に設置されたカメラ等のエッジデバイス群>
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――  現場最適化ソリューションの仕組みは。

一力  倉庫の天井などに設置したカメラやセンサー等からデータを収集し、現場の状況を「可視化」します。そして、作業を「標準化」し、標準値と収集した実績値の差を埋めることで業務を「最適化」します。この「可視化・標準化・最適化」を繰り返す一連のプロセスがIEの手法です。

――  3つのプロセスのうち「標準化」とは具体的に何をするのでしょうか。

一力  標準化というのは、ある作業に対してどういう動作をすることが正しいのかという「基準」を決めることを指します。それがどういう業務かを言語化し、プロセス化することが標準化です。例えば、ピッキングなら「バーコードを読み取り、物を確認し、手に取って、袋や箱で梱包する」というプロセスを定義し、さらに個々の動作を何秒で実行するかを明確にします。

標準化の効果としては、個々人による作業のばらつきを無くすことができます。同じ業務であれば誰がやっても同じ時間で処理できるので、オペレーションを設計しやすくなります。例えば、出荷作業で作業者が3人いたとして、2人が早く作業を終えても残り1人の作業が終わるまでは出荷できません。この遅い1人をIE用語で「ボトルネック」と言いますが、このボトルネックを見つけて取り除くというのが業務プロセスの標準化であり、IEの手法です。

――  製造業の手法であるIEが物流業に当てはまるでしょうか。

一力  おっしゃる通り、製造業は生産計画を自分達で決められるのに対して、物流の現場は扱う物や量が日によって変化します。そのため、製造業のIEをそのまま物流に適用することはできません。ですが、それは基準値に「バッファー」を持たせることで解決できます。バッファーとは「作業のばらつきを吸収できる余裕」のことです。例えば、ある作業にかかる標準の時間を10秒ぴったりにするのではなく、5~10秒と幅を持たせることで、物流現場の環境の変化にも対応できるようになります。

物流の現場は変化が激しすぎるため、当初は当社の物流現場でもバッファーの幅を決めきれず、標準化も無理だという思い込みがありました。やはり、標準化をするには基準値を決めることが不可欠ですから。それに、以前は庫内作業のデータが取れないという問題もありました。それがセンシングデバイスやセンサー、AIなどを開発し、技術が進化したことによって自動でデータを取得できるようになり、ようやくおおよそのバッファーが取れるようになりました。当社でも物流業務を標準化したのは4年前に稼働した彩都パーツセンターが初めてです。

<ピッキング作業の可視化ソリューション>
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<AI画像処理による各動作の分析結果>
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ソリューションの強みは「自社物流現場での運用実績」

――  AIで現場作業を可視化するソリューションはベンチャーなどの他社でも展開されています。パナソニックのソリューションの強みは。

一力  まず、前提として他社がすでに出しているものは作りません。そのうえで他社と違うのは、自分たちの現場でオペレーションをして本当に役立つかどうかを検証している、ということが大きな差ですね。可視化ソリューションの多くは、設置される環境に影響されやすい傾向にあり、現場によってはカタログスペック通りの性能が発揮されないことが多いです。当社のソリューションは全て彩都パーツセンターで実際に運用されているものです。実証実験ではなくて、実際に使用していて成果も出ているというのは大きな強みですね。

――  採用されている技術は全てパナソニック製ですか。

一力  ソリューションの全部が自社製というわけではなく、他社が強みを持っているような部分を組み合わせてソリューションに仕立てます。例えばピッキング作業を可視化して分析するソリューションも、はじめは他社のシステムをそのまま使っていたのですが、それは人の作業を割り出すのに手や腕が映っていないと骨格として認識できませんでした。実際の現場では作業者の腕まで映らないことが多いため、現場では使えません。そこで、ここの画像分析は自社で作り直し、腕が映りこんでいなくても作業者を認識できるようにしました。開発環境と現場環境は大きく違うことが多いです。現場で開発をすることの大切さを感じています。

<積載率可視化ソリューション>
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<AIで可視化された積載率>
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――  そのほかに独自性を持ったソリューションの事例は。

一力  例えば、カゴ車の積載量を可視化するソリューションであれば、停止している状態のカゴ車を対象にしたものは既に存在しますが、物流現場で必要としているのは「動いているカゴ車の積載率を可視化する」ものでした。これを当社ではセンシング技術と解析技術を組み合わせて実現しました。

人の作業分解も、他社のソリューションはデータを取って1週間分析し、その後レポートを出すといったもので、それではレスポンスが遅くて現場では使えないです。当社で出しているソリューションは、リアルタイムで処理することができます。リアルタイムが大事なのは、リアルタイムに見るためではなく、処理速度が速いという点です。もし20か所の作業を分析するとして、1か所の分析に10秒かかれば20か所で200秒、それが1日分のデータになると分析に1週間近くかかることになります。処理速度が1か所あたり1~2秒であれば数十秒で結果がでます。AIの処理速度が速いというのは現場のデータを収集するうえで非常に重要なことです。

――  一つ一つは小さくても集まると膨大な量になりますね。

一力  そうですね。AIの開発が実証実験で終わりがちなのも、1つのデータを処理する実験では良い結果が出ても、それが20回分となった場合に時間がかかり過ぎてしまい、実用化が見送られるケースが多いことにあります。我々はソリューションを開発するにあたって「実証実験で終わらない、本当の現場で使える」ということを念頭に入れています。それを実現にするのが、彩都パーツセンターなど自社の物流現場での実際の運用実績です。実証実験レベルではなく、実運用で成果を上げているというのは、大きな強みだと思っています。

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■プロフィール
1999年、松下電器産業(現パナソニック)に入社。データベースシステム開発、製造系基幹システム導入PJ、経営企画、IoTによるスマートファクトリー・スマート倉庫構築などに従事し、現在は社内で実践したオペレーションの知見とパナソニックのデジタル技術を組みわせた「インダストリアルエンジニアリング(IE)とDXの融合による経営オペレーション変革」を中核とするデータ駆動型経営オペレーション構築のコンサルタントとして、社外の製造、物流、流通業界における経営プロセス変革を推進。

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