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「在庫は持てるだけ持つ」
常識を超える発想力で経営

2021年08月27日/物流最前線

20210823trusco icatch 520x293 - 物流最前線/トラスコ中山、中山哲也社長インタビュー

1959年創業のトラスコ中山。工場用副資材(プロツール)の専門商社であり通販事業者やホームセンター、工具・金物店への卸業者だ。物流関連のニュースによく登場する同社だが、「在庫は悪」の言葉とは対照的に在庫を持てるだけ持つという独特の哲学で有名だ。在庫回転率と言う言葉は社内では全く聞かれなくなって久しいという。「回転率より顧客に届く即納率を重視している、それが当たり前」と語る中山哲也社長。その独特な経営思想と共に、最近資本業務提携を行ったGROUNDやシナモンAIとのパートナー関係で、物流DXの動きも加速している点も注目される。新型コロナ禍の中、中山社長に同社の物流に寄せる強い思いを存分に語ってもらった。
取材:7月28日(8月6日一部加筆) 於:トラスコ中山東京本社

<中山社長>
20210823trusco2 520x328 - 物流最前線/トラスコ中山、中山哲也社長インタビュー

<取材を行ったトラスコ中山東京本社>
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コロナ禍は災いだけでなく、新たな知恵も与えてくれた

――  2021年12月期第2四半期決算が8月6日に発表されました。

中山  売上高は前年と比べて5.1%増、ほぼ予算通りの着地となりました。弊社のありたい姿実現のため、今後4つの方策を引き続き実施いたします。それは、まず運賃半分、手間半分、環境にも優しい「ユーザー様直送サービス」の拡充。また、置き薬ならぬ置き工具「MROストッカー」の設置拡大、そして、「プロツールの限定解除」で顧客へのさらなる利便性向上を促進、さらに、「商品1品ごとのリードタイム可視化」を行い、業界「最速」「最短」「最良」の納品ということです。

――  物流戦略は後ほどお聞きすることとして、現在も続いている新型コロナですが、御社はどのような取り組みを。

中山  当然、社員への感染予防対策を徹底して行っています。時差通勤、在宅勤務や最寄り事業所勤務のほか、1日3回の検温の実施と記録の義務化、全社員への抗原検査および役職者のPCR検査等を行いました。マスクの自社生産も行い、毎日3万枚を生産しています。

――  御社のビジネス上での影響はいかがでしたか。

中山  海外からの輸出入製品については弊社も多少の影響を受けましたが、ありがたいことに影響は最小限に抑えられました。なぜなら、在庫を豊富に抱えていたために、それが功を奏したようです。在庫を数多く保有していたということがリスクヘッジに繋がったということですね。良い方向に進んでくれたものと思います。しかし、コロナ禍で、全く社会の有り様が変化しましたね。コロナ禍は災いそのものですが、この期間は新しい流れを考えさせてくれる良い機会になったものと思います。

――  新しい流れとは。

中山  実は去年の3月に、あるネット大手通販事業者さんからコロナ禍の影響で申し訳ないけど売り上げは減りますよ、と言われていました。ところが蓋を開けてみると、結果的には前年の約2倍の売上になっていました。これは、コロナ禍が始まってすぐに「問屋によるユーザー様直送という環境保全」という施策を実行したことが大きかったですね。これはエンドユーザーに直接弊社から直送する方法です。

――  御社の取引先であるネット通販企業やホームセンター、工具・金物店を経ずに、エンドユーザーになる生産工場や建設現場、一般消費者に届けるということですか。

中山  そうです。すでにネット通販企業さん等もEC需給のひっ迫で倉庫等も大変だったと聞いています。トラスコの箱で送付した商品をネット通販企業さんの箱に入れ替えて配送するわけですから、時間も労力もかかりますよね。これまで全く無駄なことをしていたのです。そこで、弊社から直接配送するという話になったのです。弊社は在庫が豊富なことと、物流体制がしっかりしていることから、直接エンドユーザーに届けるということになりました。これにより、無駄を省いたことから、納期半減、梱包資材半減、配送運賃半減、環境負荷半減と大きなメリットが生まれました。ただ、これは弊社がユーザーと直接取引するのではなく、得意先を通じての販売となります。コロナ禍の最中ですが、それが考える機会を与え、新しい知恵を授けてくれたものだと考えています。

――  一口に、直接配送すると言っても、物流・配送・情報基盤がしっかりしていないとできませんよね。

中山  その通りです。生半可な物流体制ではとても実現しません。その点、何十年にもわたって作りあげてきた物流体制があったおかげで実現したものです。その一つの技術がI-Pack(高速自動梱包出荷ライン)です。これは梱包作業を完全自動化するもので、1時間あたり720個/ラインもの梱包出荷を行うものです。さらに、ユーザーの敷地内に置き薬ならぬ置き工具「MROストッカー」を設置。希望の商品をストックし、使用分だけ請求するというものです。過去にやってきたいろいろな取り組みが功を奏しました。きちんと稲刈りをしようと思えば、きちんと田植えをしてしっかり育てていかなければ、実現しませんからね。

――  物流施設も全国に多数開設されていますが、その体制を整えるまでは大変だったのでは。

中山  物流センターは現在全国に27か所開設しています。施設や機械などのモノだけでなく人材の育成も重要です。確かに物流の構築は一朝一夕で作れるものではありません。弊社が物流強化に舵を切ったのは約25年前。急激に物流投資をしたわけではなく、徐々に積み上げていったものです。一気に作ろうとすればとんでもない金額になると思いますね。毎年、物流関連に投資をしてきたわけですから、同業他社からすればちょっと変わった異端の経営者と見られているようです(笑い)。

<高速自動梱包出荷ラインI-Pack>
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<MROストッカーとは、日本で長年親しまれているビジネスモデル『置き薬』の工具版サービス>
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