LNEWSは、物流・ロジスティクス・SCM分野の最新ニュースを発信しています。





政策パッケージで物流は変わるか 海外の視点も交え徹底解説(後編)

2023年07月13日/物流最前線

744bb70ddbf54dcb66465e2292486f58 - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

前編では、政策パッケージの主な要点についてNX総研の大島常務が解説、廣島社長の海外の物流事情との比較なども交えながら、2024年問題への対応策を伺った。後編では、物流業界の特色である多重下請構造や懸念されるドライバー不足、2024年問題で注目される共同配送、自動化などについてさらにインタビュー。大島常務は「2024年以降、あなたの会社は本当にドライバーを集められますか」と物流危機へ警鐘を鳴らす。そんな大島常務に廣島社長は―。取材日:6月14日 於:NX総合研究所本社

多重下請け構造にもメス?
適正賃金収受へ改革が急務

――  政策パッケージには、商慣行の見直しで「多重下請構造の是正に向けた規制的措置等の導入」が入っています。これまで業界の課題だった多重構造についても今後、大きく変わっていく可能性はあるのでしょうか。

大島  大きいかどうか分かりませんが、変えていく必要は、私はあると思っています。第9回「持続可能な物流の実現に向けた検討会」(以下、検討会)では、国交省が多重下請構造の実態調査を公表していますが、まだ全容が見えていません。1次下請けが全体の何%、2次下請けが何%、本当にひどいところだと7次、8次、9次下請けまでがあったとかいう話が出ますが、それは100分の1なのかどうなのか、そういうところも分かっていない。

<持続可能な物流の実現へ向けた検討会 左端が大島常務>
202307saizensen1 1 - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

<検討会資料より「多重下請構造についての実態把握調査に係る調査結果」>

202307saizensennx7 - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

――  国も実態を把握しきれていないんですね。

大島  もともとは6万社ある運送事業者の約75%が保有車両台数20台以下の会社ですから、その全てが大手の荷主さんと直に運送契約を結べるかといってもそうではないので、そういう点において中小が多い物流業界の中では、必要な元請け、下請け構造は依然あると思います。地域性や季節による繁閑の差を埋めていることにおいても、私は意味があるものだと思っています。

ただ、それが下へ行けば行くほど、多重構造が多くなれば多くなるほど、基本的には間を通った分だけ手数料が引かれますから、実運送をやったところがもらえる運賃料金は真の荷主さんが払った分に比べて当然低くなるわけですよね。実際、実運送さんの運賃料金がベースになってドライバーの賃金、あるいは労働条件になるということを考えると、ここは少ないに越したことはないと思います。

――  確かにそうですね。

大島  すでに大手特積み事業者さんを中心にした約20社が、全ト協さんのなかで自主行動計画を作って「2次下請けまで」ということをやっているので、近い将来(2次がいいかは別として)一定のところまでで止めるような構造に、業界自体も変えていく必要があるのではないかと思っています。

――  現状を把握しきれないまま、政策パッケージにはどう反映していますか。

大島  従って今回の政策では踏み込んでいないのではないかと思います。

――  ドライバーの賃金などについてはどうでしょうか。

大島  「担い手の賃金水準向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化等」という項目ですね。要は、本来必要とされるコストをきちんと運送事業者側が吸収できていない。それは競争のなかで今までは「難しかった」ということですが、そのしわ寄せが労働者側にいったため、長時間労働で低賃金になっている。結果、ドライバーの募集をかけてもなかなか来ない、この部分を改善していくというのも非常に重要です。

――  LNEWSで実施した2024年問題アンケートでも、一番の懸念事項は「人手不足」でした。

<LNEWS「2024年問題に関するアンケート調査>

1e9456ee7d409c6dc476f1e05657bf2d - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

大島  私はそれが一番のベースにあって、来年はそこに2024年問題が入ってくるという考え方のほうが適切なのかなと思います。今回の2024年問題を契機に、ドライバーの労働時間が他産業並みに近づいた、というのが望ましいことですし、併せて適正な運賃・料金を収受して賃金を全産業並みに引き上げる。少なくともこの2つを改善していかないと、さらにこの業界に目を向けてくれない。つまり、ドライバー不足の要因になっている労働条件について改善しない限り、人は来ないと思っています。

――  政策パッケージでは、担い手の賃金水準向上に向けて「適正運賃収受・価格転嫁円滑化等」も盛り込まれていますね。

大島  本来であれば、運送事業者は「標準貨物自動車運送約款」に基づいて荷主と運送事業者は契約を結ぶのが原則原理。ただ、それが今までしっかりと行われてこなかった。しかしこれからはやっていく必要がある、やることに意味がある思います。というのも今、公正取引委員会が動いていて、価格交渉をする場合に、少なくとも交渉の場につく必要があり、きちんと対応しなければ、昨年12月に13社の名前が公表されたようなことになりますから。

オオカミ少年と言われても
物流危機へ警笛を鳴らしていく

<大島常務>
202307saizensennx5 - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

――  今回、「送料無料」についても見直しが求められています。確かに「無料」という表記は荷主(消費者)にとっても物流コストを見えなくしている気がします。

大島  そうですね、「送料無料」はずっと議論になっていますね。無料といっても実態ベースで絶対に無料で運ばれていないので、「送料込み」あるいは「送料当社負担」とすればいいだけの話だと思います。タダと書かれると輸送は軽んじられているという理解になります。運ぶ側からしても「タダの部分を一生懸命やっているんだ」となりかねない。しかし、広告上の法律としては、現状引っかからないんです。テレビショッピングなどでは「金利手数料は当社負担」と必ず言っています。金利に関しては、法律上「無料」にしてはいけないからです。

廣島  それをすると、詐欺になってしまう。

大島  送料に関しては、無料といって引っかかる法律がない、金利手数料はあるから使い分けをしているわけです。

廣島  「送料無料」を規制する枠組みは政策パッケージにはないのですか?

大島  政策パッケージでは「『送料無料』表示の見直しに取り組む」とされており、消費者庁で意見交換会が始まりましたね。

――  ラストワンマイルについてはどうお考えですか。

大島  ラストワンマイルはやはり持ち戻り(再配達)ですね。検討会でも私は何回か言っていますが、物流のボリュームベースでいうと、営業用トラック輸送の約98%がBtoBなので、まずそこをしっかり考えていかないといけない。もちろんラストワンマイルも必要ですが。

―― 急がないものは、ゆっくり運びましょうなど、社会的な意識変容につながっていくのでしょうか。

大島  そうなっていかざるを得ないと思います。というのも、我々が荷物を宅配で受け取るとき、「置き配」なんて過去にはあり得なかった。ただ、もうそれが普通になってきている、時代が変われば変わるものです。ということは、BtoBにおいても、取引条件の見直しというのが今後可能なのではと思っています。見直すことによって、本当にそれが必要なのか、もっと積載率を上げられる、生産性向上を図れる、労働時間短縮という効果が出てくる可能性はあります。現場は「宝の山」、改善できる余地はたくさんあると思っています。

――  モーダルシフトや共同輸配送についてはどうお考えですか。

大島  もっとできると思います。ただ、モーダルシフトに関しては、船と鉄道の空いている輸送枠が決して多いわけではないので、あとはマッチングをどうするかが重要かと。輸送のボリュームが上下でアンバランスだったり、例えば東名大に持っていくものはたくさんあるけれども帰り荷はない、北海道に持っていくものはあまりなくて出るものはあるとか、そういうのをマッチングさせていく必要が出てくると思います。

廣島  特定のお客さんしかやっていないとかね。

――  荷物を確保するためにどこかと共同で運ぶとなると、なかなかハードルが高いのでは。

大島  結局、競争の原理が働く部分は残っているので、簡単ではないです。ただ、やはり効率化とかドライバーが足りなくて、1人のドライバーの生産性をいかに上げるかという考え方になると、お互い手を結べるところは結んでいこうよ、という動きはこれから出てきても不思議ではないと思います。

―― 共同配送の仕組みは誰が、どう作るのですか。

大島  運送事業者さんがAとBと荷主さんを持っていて、条件がうまく合うから一緒に運んでいいですか、という共同配送ももちろんありますが、例えばF-LINEさんのような、同業他社どうしが製品を作ったり、営業したりというところで競争して、物流はもう共同でやりましょう、という考え方はこれからもっともっと出てきてしかるべきだと思いますね。

<廣島社長>

202307saizensennx6 1 - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

廣島  弊社グループの医薬品の取り組みもそうですね。これまで専用の倉庫というのを医薬品メーカーさんが作られてきていたのを、日本通運でGDPプラットフォームを提供しますので、他の医薬品メーカーさんと同じ配送センターを使っていただき共同配送を一緒にやりませんかと提案して、やり始めているところです。

――  日本では積載率が約40%、共同配送すればもっと上がりますね。

大島  例えば長距離で言うと、1日、2日待っていても、帰り荷を積んで帰ってくるというケースがありますね。その帰り荷を今以上にうまくマッチングでできれば、輸送効率は上がっていくでしょう。

――  その情報をタイムリーに得ることができれば、加速しそうです。

大島  そこはもう、まさにDXの話になってきます。SIP(戦略的イノベーションプグラム)やフィジカルインターネットもそうですが、荷物の情報とトラックの情報と倉庫の情報を同じプラットフォームに上げて、AIでマッチングさせるとよいのではと、まさにその通りです。ただ、ここは総論賛成各論反対の声も聞かれますね。

問題は、そうすると共同配送もそうですが、荷物の情報や営業情報が、みんなばれてしまう。そういうのが今まで、各論反対の大きな要素だったわけです。しかし、これも「背に腹は代えられない」で、変わってくるかもしれませんね。それは来年以降、本当に輸送できないとなれば、困るので。運んでもらえないということは、たぶん近代日本の歴史の中で一度もないですよね?

廣島  ないですよね。

大島  だから荷主にしても「運送事業者がたくさん倒産した、なんて話は聞かない、運送業者はまだまだいるんだから大丈夫でしょう」と。運送業者も「いやいや、物流がなくなることないから大丈夫だろう」と思っているのではないでしょうか。では物流事業者に「このまま、ドライバーをこの先も本当に集められる自信がありますか」と。私は今、そこを突っ込んでいますけどね。

廣島  だんだん過激になってますよ(笑)。

大島  なってますね(笑)。

――  2024年以降、運べない日がくるのでしょうか。

大島  そうですね。本当は、運んでもらえないことがないことが望ましいんですよ。だからあくまでそういう危険性があります、という警鐘を鳴らしているし、そうならないためにこうしましょう、というのは言わせていただいています。ふたを開けたらソフトランディングして、来年、輸送を断られたということがなければ、それに越したことはないので、最近は「そうなったら大島はオオカミ少年だった、と言ってくれて構わない」と言っています(笑)。

働き方改革への投資最優先に
過酷な労働からの解放を

<廣島社長(左)と大島常務>

202307nxsouken4gif 1 - 物流最前線/NX総研による「政策パッケージ」徹底解説II

――  根本的な問題になりますが、物流業界は若い世代にあまり人気がない、ドライバーもなり手がいないということについてどう考えていますか?どうすれば物流業界が活性化していくのでしょうか。

大島  私は何より労働条件を上げることが必要だと思っています。今は昔よりドライバーをやりたいというパイが減ってきていますがゼロではない。少ないパイをいかにキャッチするかということが必要なときに、「労働条件が悪いからやめなさい」「危ないからやめなさい」というハードルがあるのも事実かと。安全性についてはきちんと教育をして徹底していく必要はありますが、賃金や労働条件が他産業並み、さらにもっと魅力的になれば、そのハードルは低くなってくると思います。

廣島  ドライバー1人がより多く運ぶためには、大型化はもちろんですがロボット化・自動運転化に投資していくことが必要だと思います。レベル4の自動運転トラックや隊列走行できるトラックなどは使えば使うほど性能は向上し、多く作れば作るほどコストが低減できますので、同時にドライバーの賃金適正化も図ることを進めてほしいと思います。

大島  輸送ではダブル連結トラック、のようなものですね。最近、高速道路を走っていて、セミトレやフルトレ、ダブル連結などを見る機会が増えましたね。過去にいろんな理由で大型化が進んでこなかったものが、やはり「背に腹は代えられない」で、1人でたくさん運べる、そういう仕組みを作っていかざるを得なくなってきている。

――  なるほど、労働環境をよくするためにも効率化や自動化は必要ですね。

大島  先ほど、廣島社長が言われたロボット化は、荷役作業の自動化も考えられますね。大型10トン車を手積み手降ろしなんてまだまだたくさんありますが、そんなことをやるドライバーはもういません。

――  2024年問題をふまえ、効率化・自動化はどの分野に投資をしていくべきか、それぞれのお考えをお願いします。

大島  今までのようなドライバーや作業員の長時間労働や手荷役に頼る物流から人に優しい物流、すなわち働き方改革に向けた投資が最優先だと思います。

廣島 人が体を壊してしまうほどに過酷な労働から、ロボットやITで解放すること、そのための投資を惜しむべきではないと思います。

――  最後に読者にメッセージをお願いします。

大島  荷主さんにとってみると、今回政策パッケージやガイドラインで、対応を促されるという感じかもしれませんが、運送事業者の側からしても、ただ単に待っているだけでは何も改善できるわけではない。「荷主さんは選ばれる荷主さんになってください」「運送会社はきちんと提案をしてください」、それが今一番申し上げたいことですね。

廣島  私は以前ドイツやオランダの配送センターで勤務した経験がありますが、ここではトラック事業者と四半期おきにデータをもって品質改善と費用の適正化に努めていました。混載便扱いでは数量単価を設定していましたが、パレットの高さが低いとトラック事業者にとってはトラック一台当たりの収入が下がってしまうので、「単価を上げてくれ」と要求されます。そこで、我々配送センター側ではより背高のパレットで出荷しようとする。ところが受荷主側の倉庫のラックが例えば高1.5mのパレットしか受けられず高く積めないことがあります。そうすると今度は発注者の発荷主に対し、「この配送先向けは積載効率が悪いため、料金を上げてください」とデータをもってお願いすることになります。データドリブン経営とか言いますが、日本でもそうしたことが受け入れられる土壌ができていると思います。中小の運送事業者にとっては大変なことかもしれませんが、運送事業者はそうしたデータを集め、荷主に実態を知らせる努力が必要とされています。そうした積み重ねの上で、料金の適正化やドライバーの負担軽減を図っていただきたいと思います。

取材・執筆 近藤 照美

■プロフィール
大島 弘明(おおしま ひろあき)
1964年 東京都生まれ
1988年 日本大学理工学部卒、日通総合研究所入社
2018年 取締役
2023年 常務取締役
流通経済大学 客員講師
主にトラック運送事業の変化や労働・安全問題、物流効率化対策などの調査研究に従事。トラックドライバーの労働時間短縮等働き方改革に向けた物流現場改善のアドバイス・コンサルティングも担当。
経済産業省・国土交通省・農林水産省の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員
著書「トラックドライバー不足に挑む!」(単著)

■プロフィール
氏名:廣島 秀敏(ひろしま ひでとし)
生年月日:1961年11月19日
1984年4月:日本通運 入社
海外プラント輸送支店 配属
1985年5月 エジプト出張(1月か月)
1986年2月 イラク長期出張(1年)
1987年3月 横浜海運支店輸入課 異動
1988年10月 海外業務研修(1年)
1992年2月 ロシア極東出張(2カ月)
1993年2月 ロシア極東出張(1カ月)
1996年5月 国際輸送事業部複合輸送グループ 異動
人道援助物資輸送担当(アフリカ各国出張)
2001年5月 ドイツ日通 出向 ロジスティクス担当課長
2005年10月 兼欧州開発室 ロジスティクス担当次長
2009年11月 日本通運 海運事業部複合輸送担当次長
2011年10月 同社 海運事業部複合輸送担当専任部長
2013年5月 オランダ日本通運 出向
ロジスティクス部長 兼 海運貨物部長
欧州海運貨物部長 兼 欧州ロジスティクス部長
2018年4月 日本通運グローバル・ロジスティクス・ソリューション部長
2022年1月 NX総合研究所 代表取締役社長

■NX総合研究所
https://www.nittsu-soken.co.jp/

関連記事

トップインタビューに関する最新ニュース

最新ニュース