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物流最前線/トップインタビュー日通の医薬品物流戦略

2020年11月04日/物流最前線

世界の医薬品市場は2018年に市場規模約100兆円に上り、ここ数年は年平均6.3%増の成長を見せているという。そして今年の新型コロナウイルスの感染流行に伴う、ワクチン等の医薬品の開発には世界中から大きな注目が集まっている。そのような中、日本通運では約5年前から医薬品物流に本格的な取り組みを開始している。国内では医薬品物流拠点をすでに4か所で建設中。それぞれが間もなく竣工する予定だ。併せて、海外の施設でもGDP(医薬品の適正流通基準)認証を受けた施設を相次いでオープンしている。同社の石井 孝明副社長は元々「社会貢献、サスティナビリティのビジネスを立ち上げるということから始まった」と言う。インフラ整備が整いつつある現在、これまでの経緯と医薬品物流の困難さや重要性、そして今後の展望について語ってもらった。取材:10月6日 於:日本通運本社

<石井 孝明 副社長>
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<竣工したばかりの九州医薬品センター>
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<専用車両は150台導入予定>
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医薬品事業に1000億円の投資

―― このところ医薬品物流関係のニュースを数多く発信されています。約2年前から医薬品関係が多くなってきたと思いますが。

石井 そうですね。4拠点の医薬品物流施設建設が始まったのが、2019年6月の九州医薬品センターの着工からですからね。残りの3拠点もすべて建設中であり、間もなく竣工を迎えることになります。

―― 医薬品サプライネットワークの構築には相当な費用が掛かったと思いますが、投資額はどのくらいになりますか。

石井 倉庫関係だけで約500億円、車両やシステム開発、その他で150億円の合計650億円、さらに海外展開分も含めれば1000億円くらいになりますね。

―― そもそも、日通が医薬品物流に取り組もうとされた理由と言うのは。

石井 実際に医薬品物流の計画を練り始めたのは今から5年前になります。私どもの経営会議の中で、ESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字)経営あるいはサスティナビリティ(持続可能性)について論議していく中で、社会貢献できるビジネスとは何かということになりました。これまで、お客様との私どもの関わりは個社対応という形でした。これは、各会社単位の要請に基づきサービスを作り上げていくというもので、これが確実にお客様のニーズを反映できるものだと考えていました。一方で、社会は国内にとどまらず、グローバルサプライチェーンが構成された形になってきました。したがって、個社対応から産業界ごとの対応に切り替えていこうと考えました。これにより、その中で、様々な課題を解決していける方法が見つかるのではないかと考えたわけです。

―― その産業界の一つに医薬品業界を選んだわけですか。

石井 そういうことです。このプロジェクトを医薬品サプライネットワーク構想「Pharma2020」と呼んでいます。医薬品産業は、現在注力している5つの産業の内の主要な1つです。医薬品というのは、ロジスティクスを実践するにあたって、高度なサービス・品質管理が要求されます。対応するには、相当な投資と経験が必要になってきます。1社1社だけの対応ではなく、医薬品産業と呼ばれる産業自体をしっかり捉え、ある意味プラットフォームのような共通したサービスを業界に提案できないだろうかと考えたわけです。

―― これが社会に貢献でき、持続可能性にもつながることになるということですね。

石井 医薬品を利用される患者さんに安全・安心を担保できることに我々も協力できるということです。ただ、医薬品の安全・安心を担保するには、ロジスティクスの部分で2つの課題がありました。1つは温度管理で、医薬品本来の価値を保つには絶対必要なことです。もう1つが偽薬問題です。2017年のC型肝炎治療薬の偽造品流通事件は大きな社会問題となりました。日本ではあまりこういった事件は起こらなかったのですが、海外の一部の国では非常に頻繁にあるようです。このような事態は是非とも防がなければなりませんが、そのポイントがGDPなのです。

―― GDPガイドラインが厚労省から2018年12月に出されました。

石井 現在の所はガイドラインですね。C型肝炎偽薬事件は、調査では倉庫から流通する過程で混入されたそうです。一つ数十万円もするものですから、当然大問題になりました。国内では偽造医薬品の流通はないとの認識が一般的でしたが、実際に起きたことで、厚労省も急ピッチで流通にメスを入れ、海外と同じようにGDP法制化を検討したと思いますが、すぐに法制化するということにはさまざまな課題があり、とりあえずガイドラインということで出したものと考えています。

―― 海外では法制化されている国が多いのですか。

石井 欧州では法制化されており、米国でも法制化が予定されています。ただ、法制化されても、物流の体制が整っていなければ医薬品が流通できなくなりますのでそれはそれで問題です。日本でも4~5年後には法制化されるのではないかと考えています。

―― 医薬品は生命にかかわるものですから、徹底的に安全・安心な流通過程が必要ですね。

石井 そこで私どもでは、その部分をきちんと見える化して、誰でも確認できる、そういうサービスを作れば、きっと多くの人の役に立つと思ったのです。現在、全力を挙げてシステム作りを推進しています。高齢化時代を迎え、人生100年とも言われていますが、そうなると医薬品の役割はもっともっと高まるものとみています。日本通運のサービスということに加えて、医薬品業界に関わる多くの皆さまが使えるサービスにしていくことで、まさにプラットフォームともいえるものです。そうすれば、おのずと流通コストも引き下げられていくものと考えています。

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